室内練習場で福留孝介(左)は馬場皐輔(中央)と藤浪晋太郎と話し込む(撮影・奥田泰也)
室内練習場で福留孝介(左)は馬場皐輔(中央)と藤浪晋太郎と話し込む(撮影・奥田泰也)

午後、メイングラウンドではいわゆる「ケース打撃」が行われた。内野手争いに参加している上本博紀がいきなり大きな本塁打を放つなど、虎党からは歓声が上がった。

その同じ頃。宜野座ドーム、つまり室内練習場ではちょっとめずらしい光景が繰り広げられていた。ベテラン福留孝介が投手のようにセットポジションで構える。それを見守る馬場皐輔、浜地真澄、それに望月惇志といった若い面々。途中から藤浪晋太郎までリラックスした様子で加わった。そんな若い投手たちを前に福留が身ぶり手ぶりを交え、懸命に話しているのだ。

このキャンプ、福留はあまり目立っていない。自身の調子というより、若手を指導する様子が見受けられるという記事も日刊スポーツに出ていた。それにしても投手相手か。しかもセットポジション。笑顔を浮かべながらも真剣な様子で一体、何をしている。時間にして約30分。気になった。

福留 あれですか。最近の歌手の振り付けをね。ちょっと練習してたんですよ。盗塁を防ぐポイントですかって、ボクは盗塁をしないしね。ポイントって言っても分からないですよ。

とぼけた様子でそう話すベテラン。本当に誰かのダンスの振り付けをしていたのならそれはそれで楽しいところだが、もちろん、違う。明かしたのは馬場だった。

馬場 あれですか。う~ん。まあ走者から見たセットポジションのクセっていうか。そこを教えてもらっていて。それをみんなで聞いていたって感じですかね。

馬場は14日に宜野座で行われた楽天との練習試合で3盗塁を許している。試合後にその結果を反省し、対策を取る必要を口にしていた。この日もその練習に取り組んでいたのだが、そこに福留が飛び入りで指南役として加わったということだ。

馬場 内容はちょっと言えないというか、あれですけどね。いろいろと教えていただいて。なるほどっていうか勉強になりました。

かつては「プロは見て盗め」と言った時代もあった。だが最近の世の中、あるいは最近の若い人を相手に野球の世界だけでなく、そういう感覚は通用しない部分もある。しかも野手と投手という間柄。伝えられることは伝えてやろう、ということなのだろう。

指揮官・矢野燿大が選手の自主性を前面に出すこのキャンプ。ベテランも自主的に指導をしている。馬場のセットポジションからクセが消え、そこから発展してチームが強くなれば。困るのはライバルチームだけだ。(敬称略)