個人的な話を書くのを許していただきたい。十数年前は「母の日」がこわかった。妻は3人の娘が幼い頃に亡くなっている。幼稚園、小学校とその日に向けていろいろとある。友だちはウキウキするだろうその日、ウチに「母」はいない。娘たちはどんな思いでいるのだろうか。想像するのがこわかった。

「公私混同」はダメだろうが、梅野隆太郎をどこかで応援しているのは彼の明るさに加え、身の上によることは否定できない。小学校のときに母親を亡くし、どんな思いで青春時代を過ごし、選手になってきたのか。数年前、少しそんな話を聞いたことがある。

「そうですね。野球ばっかりやってましたからね。寂しいとかそんなことを感じているヒマもなかったし。ホント、そんな感じですよ」。少し考えて梅野はそんなことを言った。すべてが本音ではないかもしれない。でも子どもの立場からすれば、そういう面もあるのだろう。

「小さな子どもには過去も未来もないんです。今があるだけ。だからいいんですよ」。子どもがお世話になった幼稚園の先生からはそんなことも聞いた。そういう意味で大人よりも強いのかもしれない。

野球の話だ。すさまじい打撃戦の中、梅野が今季初のマルチ安打をマーク。特に逆転を許していた4回の先頭として中前打を放ったのはチームに勇気をもたらしたかもしれない。地味だがいい働きだった。

打撃不振、さらに先発マスクの試合でなかなか勝てない今季、梅野の表情が硬い。かつて選手はメディアに批判されるだけだったが今はネット社会で一般の人からもあれこれ言われる。そういうものが相まって精神的にこたえるのだろう。

苦闘の日々で「母の日」に初のマルチというのも梅野らしいと勝手に思った。「自分にとってはめちゃくちゃ特別な日なんで。見てくれていると。ここから上がっていけるようにやっていきたい」。梅野自身も虎番記者たちにそんな話をしていた。こちらも思わず、声を掛けてしまう。お母ちゃんのおかげかもな-。

「ホント、そうですよ。そう思います」。表情はまだ厳しいが、はっきり答えた梅野だった。「母の日」にマルチ安打、そして25日ぶりの単独首位浮上ときた。まだまだ先は長いが、ここから状況が変わっていってほしい。そう思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対DeNA ピンクのプロテクターで出場する梅野隆太郎(撮影・上田博志)
阪神対DeNA ピンクのプロテクターで出場する梅野隆太郎(撮影・上田博志)
阪神対DeNA 4回裏阪神無死、梅野は中前打を放つ(撮影・加藤哉)
阪神対DeNA 4回裏阪神無死、梅野は中前打を放つ(撮影・加藤哉)
阪神対DeNA 4回裏阪神無死、梅野はバットを折りながら中前打を放つ(撮影・上山淳一)
阪神対DeNA 4回裏阪神無死、梅野はバットを折りながら中前打を放つ(撮影・上山淳一)
阪神対DeNA 4回裏阪神無死、梅野は中前打を放つ(撮影・上田博志)
阪神対DeNA 4回裏阪神無死、梅野は中前打を放つ(撮影・上田博志)
阪神対DeNA 4回裏阪神1死二塁、西純の中前打で三塁に向かう梅野(撮影・上山淳一)
阪神対DeNA 4回裏阪神1死二塁、西純の中前打で三塁に向かう梅野(撮影・上山淳一)
阪神対DeNA 4回表DeNA無死二塁、平良のバントを捕球し二走伊藤の進塁を阻んだ捕手梅野(撮影・上山淳一)
阪神対DeNA 4回表DeNA無死二塁、平良のバントを捕球し二走伊藤の進塁を阻んだ捕手梅野(撮影・上山淳一)
阪神対DeNA 4回表DeNA無死二塁、平良のバントを捕球し二走伊藤の進塁を阻んだ捕手梅野(撮影・上山淳一)
阪神対DeNA 4回表DeNA無死二塁、平良のバントを捕球し二走伊藤の進塁を阻んだ捕手梅野(撮影・上山淳一)