昨年未勝利に終わった阪神藤浪晋太郎投手(25)の苦闘が続いている。春季キャンプでは山本昌臨時コーチ(54)の指導などでフォーム修正に励んだが、23日の広島とのオープン戦では2回3四死球3失点と結果を残せなかった。復活を目指す藤浪の「現在地」はどこにあるのか?

日刊スポーツ評論家の中西清起氏(57)が連続写真から現状の投球フォームを解析した。【取材・構成=田口真一郎】

藤浪晋太郎の連続写真(2020年2月19日)
藤浪晋太郎の連続写真(2020年2月19日)

結論から言うと、藤浪の目指す方向性は決して間違っていない。昨年よりも、レベルは上がり、いい形になりつつある。しかし、まだ完全復活には足りない部分がある。後で説明するが、改善すべき2つのポイントがある。順を追って、投球動作を見ていく。

<1>の立ち姿から変化が見られる。従来よりも歩幅を広げている。以前は最初から右足に体重を乗せていたが、今は構えた時により自然に立ちたいという考えからだろう。力みをなくそうとする意識が感じられる。始動から左足を上げる一連の流れは問題なく、右足にしっかりとウエートがかかっている。

<1>立ち姿

<1>
<1>

昨年と大きな違いがあるのは、<6>~<8>のテークバックだ。昨年は打者に背中が見えるほど左肩をひねり、右肘がお尻の後ろにまで出ていた。力みがあったのだろう。これだけ長い腕を横に振れば、どうしても下半身の動きに対して、腕が遅れてしまう。しっかりとトップの位置が作れずに、指にかからず、抜け球の原因になっていた。今年は、テークバックが小さくなり、体のラインに沿う形になった。制球を考えてのことだ。

<6>~<8>テークバック

<6>~<8>
<6>~<8>

<9>から左足の踏み出し、そしてトップの位置に向かう。<12>では肩のラインから右腕、頭と三角形ができている。これはいい形だ。胸をしっかりと張って、右手が頭の近くにある。この右手が離れてしまうと、制球が悪くなるし、腕が振れなくなる。この三角形なら、ボールをたたける。ただし、1つ目の改善点が<14>にある。藤浪は手首を立てるように修正しているが、あともう数ミリ立ててほしい。そうなれば、ボールが指にかかる。昨年よりは良くなっている。それだけに、あと数ミリだ。実際にボールを握ってみれば分かるが、手首が立たないと、なでる感じになり、力が伝わらない。

<9>踏み出し

<9>
<9>

<12>

<12>
<12>

<15>からフォロースルーへと移っていくが、ここに2つ目の改善点がある。投球フォームはテークバックが短く、フォロースルーは大きくなればいい。その点で言えば、まだ前に体重がかかっていない。<17>で左膝の上に腰が来るようになれば、体全体が前に出る。そうすれば、もっと球に力が乗る。もう数センチのレベルだ。それができれば、リーチが長いので打者との距離も近づく。藤浪が良かった時期は、フィニッシュの所がもっと低かった。指がパチンと地面に当たるんじゃないか、と思うぐらいだった。

<15>フォロースルー

<15>
<15>

<17>フィニッシュへ

<17>
<17>

春季キャンプで藤浪の実戦を見て、気になるのは、150キロを超える直球を投げているのに空振りが取れないことだ。抜け球が減っているのはいいが、スピンの効いた真っすぐが投げられていない。直球を簡単にとらえられるのが気がかりだ。現状のままだと、スライダーなど変化球の精度を上げないといけないだろう。本来の真っすぐを取り戻すには、手首を今よりも数ミリ立て、腰を数センチ前に押し出す。これだけでも数カ月かかるが、修正できれば、もう1段階レベルも上がるはずだ。