連続写真でフォームをひもとく「解体新書」。今回は巨人の4番、岡本和真内野手(24)を日刊スポーツ評論家の和田一浩氏(48)が分析します。7月28日DeNA戦で放った滞空時間7秒34(日刊スポーツ計測)の1発。このアーチには理想的なホームラン打者への成長を裏付ける確かな技術が凝縮されていました。

日本を代表するホームラン打者として覚醒している岡本だが、その成長を証明するような見事な打撃フォームだ。打ったのは見逃せばボールになる内角148キロ(投手はDeNA井納)の直球だった。これを滞空時間の長い飛球で左翼スタンドに運んだ。長距離砲が見せる特有の1発だった。

(1)の構えで特徴的なのが、軸足の向き。右膝を割るように開いている。成績を残しだした2年前ぐらいから、このような構えをしていたが、今年はさらに極端に開いている。自分の特性を自覚したのだろう。

まず、この構えのメリットとデメリットについて紹介しておこう。軸足の膝を開いて構えると、重心が右半身に残しやすく、上半身が前に突っ込みにくくなる。右足が内側に折れるタイミングを遅らせることで、体の正面にインパクトゾーンを持ってこられるし、体の開きも抑えやすい。デメリットは、腰が回転しづらくなり、鋭い軸回転でスイングしにくくなること。参考までに、私は投手に対して軸足のスパイクが垂直になるように構え、打ちにいくときに少しだけ膝を割っていくように、柔らかく使えるように心掛けていた。軸足の向きや使い方は、個人によって違うので、試行錯誤しながら自分に合ったやり方を探してほしい。

(2)からタイミングを合わせて打ちにいくのだが、左足を伸ばして踏み込んでいく(6)まで、頭が突っ込まずに後ろに残っているのが分かるだろう。グリップの位置と右のスパイクの位置を線で結ぶと、地面に対してほぼ垂直な線ができる。踏み出している左足のスパイクとグリップの位置も離れていて、しっかりと「割れ」もできている。理想的なトップの形ができている。

左足を地面に踏み込んだ(7)でも、頭が突っ込まずに我慢できている。このときの右肘とグリップの動きに注目してもらいたい。悪い打者は右肘が体の前に入らず、グリップだけで打ちにいこうとする。そうなると手打ちになり、バットのヘッドが外側から入っていきやすくなってしまう。岡本のように、右肘が体の前に入っていくように使えると、下半身がリードして上半身が追い越していくようなスイングが可能になる。

(7)から(8)の形に移る間ぐらいに、投手の球がどの辺りにくるか予測できる。だから(8)の形だけを見ると、左肩が開き、左脇も空き気味になり、両腕も極めて窮屈そうに見えるだろう。あまり見栄えはよくないが、これは内角高めの直球を打ちにいっているからで、ここのボールを打つのなら理想的な形。難しい技術が集約されているのが(9)の形で、両腕を曲げてたたんだまま、バットのヘッドを返さずインパクトしている。並の打者なら、両腕を伸ばしていくように使うため、差し込まれるか、差し込まれないようにヘッドを返すようなスイングになる。岡本は頭も残っているし、腕を曲げたまま、体に近いグリップ位置で打てるから、打球を上げることができる。普通に打ちにいけば、差し込まれてサードゴロかショートゴロ。うまくバットの芯で捉えられても、ドライブがかかったような強烈なフックがかかる打球になり、三塁側へのファウルになっただろう。

(10)のフォロースイングは完璧。この段階でもバットのヘッドは返っていない。(11)のフィニッシュも素晴らしい。グリップの位置が左肩の近くにある。このとき、右手が離れてグリップの位置が上に方に流れてしまう打者がいる。そうなると、スイングの力がロスして、打球へ力が伝わりにくくなってしまう。バットが体に巻き付くように使えているから、回転の利いた素晴らしフィニッシュができる。岡本の長所はバックスクリーンや逆方向に長打が打てるところ。その長所に加え、引っ張って打球が上がるようなスイングができれば、本塁打はもっと増えると思っていた。理想的なホームラン打者になってきた。(日刊スポーツ評論家)