連続写真で選手のフォームをひもとく「解体新書」。今回はクライマックスシリーズ進出を争う西武の栗山巧外野手(37)です。球団の生え抜き選手では初の通算2000安打まで残り76本としたプロ19年目のベテランの打撃を、日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏(49)が分析しました。

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栗山は基本に忠実な打撃フォームをしている。若い頃から注目していた選手の1人で、紆余(うよ)曲折しながら現在の打撃フォームにたどり着いたのが伝わってくる。身長177センチで体重は80キロ台中盤。日本人野手としては平均的な体格をしている。アマチュア選手が目標にするには、うってつけのタイプだろう。

リラックスして構える(1)では、投手の投げる球に立ち遅れないように、右足を少しだけ絞り、かかとを浮かせている。(2)では、ここから骨盤の右から動かし、右足をそっと浮かせるように上げている。若い時は比較的高く、勢いよくガッと上げるタイプだったが、ベテランになると余分な動作が小さくなる。足の上げ方に表れるケースが多く、栗山もその1人。いろいろな投手と対戦してきた経験から、対応力に幅を持たせるためだろう。

(3)から(4)にかけて、軸足である左足を少し伸ばすようにして腰を投手側にスライドさせている。(4)から(5)に移行する時も、向かってくるボールに対し、少しだけ体が投手側に寄るようになってから打ちにいっている。ここが右投げ左打ちの難しいところ。利き足でない左足が軸足になるため、どうしても器用な体重移動ができず、軸足への体重の乗りが甘くなってしまう。理想でいえば、下半身だけが投手側にスライドし、頭と上半身が残るように使えると、大きな“割り”が作れる。

ただ、ここでこの打席の状況を整理しておきたい。2回1死一、三塁でカウントは2-1。得点圏でありバッティングカウント。確実にヒットを打ちたい場面で、最悪でも犠牲フライを狙いたい状況。打ったのは真ん中高めの143キロ直球で、中越えの二塁打にしている。結果的には狙い通りの理想的な結果を出した。

右投げ左打ちの長所は、利き手と逆の後ろの腕(左腕)でボールを押し込みにくい半面、バットをこねないで扱えるところ。(6)で左肩が落ちているが、(7)ではバットをこねずに、ボールの内側をたたいている。ポイントは両肩のラインとバットが平行になる位置で、ここだと強くインパクトできる。おそらく、直球は打球が上がりやすいセンターから逆方向を狙っていたのだろう。これだけ直球を近くのポイントで打てれば、変化球にも対応できる。先に説明したような動きで捉えられれば、本塁打にできたかもしれないが、確実性を重視した打撃。右投げ左打ちの特性を生かした中距離ヒッターの狙い通りの打撃になった。

頭を後方に引くようにしてバットのヘッドを走らせた(8)も、しっかりと振り切った(9)もいい。若い頃はパンチショットのようにフォロースルーが短かったが改善している。右投げ左打ちで足の速い選手は、本能的に一塁へ速く走ろうとするから“走り打ち”になる打者が多い。そのためフォロースルーも小さくなりがちで「当てて終わり」という打者になるパターンが多いが、クリアしている。(10)と(11)を見ても、しっかりと振り抜いてから走りだしている。

栗山は練習熱心な努力家。ベテランになると、どうしても瞬発力が衰え、スイングに鋭さがなくなるが、37歳になってもまだまだ“若いスイング”ができている。大きなケガがなければ来年には2000安打を達成するだろう。2000本を通過点にして、たくさんのヒットを積み上げてもらいたい。