諦めかけたマウンドで、何くそ魂を見せつけた。楽天滝中瞭太投手(26)が29日、日本ハム23回戦(楽天生命パーク)に先発。7回途中5安打無失点と好投し、チーム3位の今季8勝目を挙げ、2年目で通算10勝に到達した。小、中学校時代は控え投手で、高校時代は2度投手をやめそうになった。努力を重ね、たどり着いた杜(もり)の都で、逆転優勝への可能性をつないだ。

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ひと言で滝中の闘志に火がついた。4点の援護をもらった直後の3回。自身のけん制悪送球などでまねいた2死二、三塁をしのいだが、ベンチに戻ると、小山投手コーチからハッパをかけられた。「少し点差があっても引くな!」。ハッとした。「切り替えられたところはありました」。140キロ前後の直球も捕手炭谷から「自信を持って投げてきていいよ」と背中を押され、直球を恐れずに投げ込んだ。「何とか必死で投げることができました」。肌寒さも忘れさせる熱投で今季8勝目、プロ通算10勝目をもぎ取った。

“何くそ魂”は学生時代に養われた。小、中学時代は内野手で、投手では2、3番手の存在。高校では投手一本で挑むと決めたが、進学に際して兄に買ってもらえたグラブは「いつどこを守ってもいいように」と父の助言から、スラッガー社のオレンジ色の内野手用。入学後も球速は120キロ程度と上がらず、アンダースロー転向も考え、監督からは2度内野手転向を告げられた。それでも可能性を信じ、2年秋からエースに。球速も140キロを超えた。大学から社会人で1度の指名漏れを経てプロの扉をこじ開けた。

“6人目の男”は、右腕一本でのし上がりつつある。2年目の今季は開幕ローテ入り。田中将をはじめ、岸、涌井、則本昂、早川と豪華先発陣に食い込む。変則日程時に登板間隔がずれても、やるべきことに徹し、対応し続ける。

自身3連勝で、10勝の則本昂、9勝の早川に次ぐチーム3位の8勝。後半戦は5戦3勝、防御率1・27と好数字が並ぶ。それでも「僕は勝ちをつけてもらっているだけ。まだまだやらないといけない部分が多い」と謙虚だ。石井GM兼監督も「抑えることに文句はない。欲を言えば7回投げきってほしかった。安定の信頼の滝中まではいってない」と“非難”を交えて称賛した。残り20試合で首位ロッテへ4・5ゲーム差。逆転優勝へ“何くそ右腕”が力の限り、腕を振る。【桑原幹久】