最後の最後、支配下指名の69番目に、中日の7位で日本新薬・福永裕基内野手(26)の名前が呼ばれた。広角に打てて長打力もあり、俊足で強肩。3拍子そろった選手ながら、ここ2年、ドラフト候補に挙げられるも指名はなし。大卒社会人4年目。もう“次のチャンス”は考えにくかった。「今年は本当に最後」と覚悟していた。

しかし、指名があるなら下位と思っていたものの、5位、6位と進んでも呼ばれない。次々と指名を終える球団が出る。待機していた本社内の部屋で「ヤバい、ヤバい」。以前も味わった苦い思いが頭をよぎる。「もう終わったかも…」と諦めそうになったとき、名前が呼ばれた。安堵(あんど)と喜びで「震えました」と笑った。

プロへの原点は、高校時代の悔しい思いだった。プロ野球選手になりたいというよりも「甲子園に出たい」と、強豪の天理を選んだ。1年の夏に甲子園に出場したときはスタンドで応援した。2年の夏は県大会3回戦で敗退。そして3年夏、主軸打者として三塁を守り、県大会決勝までたどり着いた。14年7月28日、佐藤薬品スタジアム。決勝の相手は智弁学園。超高校級スラッガーとしてプロの注目を集めていた同学年の岡本和真内野手(現巨人)擁する強敵だった。天理の先発は1年生左腕の森浦大輔(現広島)だったが、初回に4点を奪われKO。そして5点をリードされた5回、岡本和に左翼場外への2ランを浴びた。「(打球が自分の)はるか頭の上を飛んで行きました」。この試合5打数無安打だった福永は、三塁からその打球を見送ったことを覚えている。天理も終盤に6点を奪ったものの、6-8で敗れた。岡本和の本塁打がなければ、勝負はどうなっていたか分からなかった。

甲子園出場という夢は消えた。だが、この敗戦が福永をプロの世界へ向かわせる。「あれが原点というか、あれがあったから今自分はここにいると思います」。不振で苦しんだときや、指名漏れしたとき「プロ入りは無理かな」と弱気になることもあった。だが、めげずに頑張れたのは、高校時代に味わった悔しさがあったからだ。「ここで折れてる場合じゃない」と、いつも背中を押してくれた。

ポジションは二塁が主だが三塁も一塁もこなす。三塁なら岡本和と同じだ。近い将来、三塁でタイトルを争うかもしれない。「今は雲の上の存在だけど、同じフィールドに立てるので、追いつき追い越したいと思う」。後輩の森浦もまた、ライバルになる。

中日は2位で明大・村松開人ら福永含め支配下で内野手を4人指名した。チームには阿部や高橋周、石川昂らもおり、ライバルが多い。

だが、それがどうした。69番目の男は、目をぎらつかせる。「プロに入ったら順位は関係ないですから」。ドラフト指名の幕尻から巻き返す。まずは開幕1軍を目標に「オールドルーキー」の挑戦が始まる。【高垣誠】

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