シーズン65試合目にして、西武のドラフト1位、蛭間拓哉外野手(22)がついに1軍デビューした。

2軍でずいぶんと日焼けし、精悍(せいかん)な顔つきだ。6月下旬の1軍昇格とはいえ、表情や所作は落ち着いている。

宮崎・南郷での春季キャンプ中、2月14日のこと。蛭間への単独インタビューを申請した。部屋にやって来た蛭間が座り、私は球団広報担当者と十数秒ほど打ち合わせをする。

振り返ると、蛭間が固まっていた。猫背気味で、視線が虚空にある。心ここにあらず、のよう。その間3秒ほど。ごめんなさい、疲れていますよね-。

「いえ、全然大丈夫です!」

背筋をしゃんと伸ばして、15分間ほどのインタビューが始まった。

あれから4カ月。初の1軍昇格が正式に決まり、あらためてキャンプ当時のことを尋ねた。

「疲れてましたね。はい。練習量は別にめちゃくちゃきついことをやってるってわけじゃなかったんですけど、精神的にも余裕がなくて」

厳しかった浦和学院(埼玉)の寮生活でも初日からぐっすり寝たのに、プロではペースがつかめない。キャンプ中の就寝時、日向灘の心地よい波の音でさえ、好きな音楽で耳からシャットアウトした。少しでも自分だけの時間を。それほど疲れていた。

ドラフト1位、注目度も高かった。

「周りの目もある程度あったと思いますけど、次に何をやるのかっていう要領とか(が分からなくて)。全部100でやってたので、持たないっすよね」

開幕スタメンの有力候補と期待されていた。疲労を残したまま練習試合、オープン戦に入り、チームで一番打席に立った。悩める日々に終わりが来ない。

「右も左も分からない状態で結果を出さなきゃという感じだったので、自分に余裕がなかったなというのはすごく感じます」

そして3月半ばに1軍から姿を消した。松井稼頭央監督(47)が振り返る。

「開幕1軍という可能性もあるんじゃないかというところも含めて、試合になるべく出続けるようにとは思っていましたけどね。一度あそこでファームの方に行って、課題も含めて取り組んでいくことがいいんじゃないかと判断をして」

2軍行きが決まり、決して強烈なショックを受けたわけではない。

「ドラフト1位で入らせていただいたんですけど、それなりの実力は自分にはないって、もともと指名された時から思っていました。周りは周り、自分は自分と思っていたので」

体力強化、直球への対応強化、などなど。3カ月間でやるべきことをやって、いよいよやって来た。

描いていたプロ野球、実際のプロ野球。将来のスター候補として足を踏み入れ、感じたギャップは。

「ギャップですか? う~ん、『苦しい』ですかね。練習が苦しいとかじゃなくて、常に結果を出さなきゃいけない世界ですし、野球が楽しいと感じたことはまだあんまり。やっぱ、職業なんで。それなりに結果が必要なんで」

それでも夢や目標があるから必死に頑張る。2軍でともに過ごす時間が長く、球団内でも話題の「2軍のビッグイニング」をともに作り上げてきた山野辺翔内野手(29)が証言する。

「蛭間がけっこう(ベンチを)盛り上げてくれてたんで」

場に慣れて、プロ野球界の輪郭が見えてくれば、あとは1位指名にふさわしい存在感を徐々に出していくだけ。もう立派な獅子の一員だ。【金子真仁】