年の瀬、阪神坂本誠志郎捕手(30)とゆっくり話をする機会に恵まれた。せっかくなので聞いてみた。虎の若手に根付きつつある「ベンチごみ拾い文化」について、だ。

「あ~、試合後の片付けのことですか? 別に決め事というわけでもないんですけどね。自分たちが飲んだものぐらい自分たちで片付けようや、というだけのこと。普通のことを普通にやっているだけですよ」

“主導者”とみられるリーダー格は恥ずかしそうに少し頬を緩めた。

オリックスと激闘を繰り広げた日本シリーズの初戦、ひそかに野球ファンから称賛を集めた動画があった。8-0で大勝した直後、京セラドーム大阪の自軍ベンチを森下翔太が片付けていた光景だ。せっせとゴミ拾いにいそしむ後輩を、先輩の坂本も「こっちにもあるよ」といった風に手伝っていたワンシーン。それは決してあの日限定の振る舞いではなかったそうだ。

「いつからやり始めたんですかね。プロに入った直後、当時コーチだった矢野(燿大)さんから言われたのは印象に残っていますけど。そもそも僕は親から『自分のことは自分でやれ』と言われて育ってきたので。ゴミを置いて帰ろうとする選手に『それぐらい自分で持って帰ろうや』とか言っていたら、若い選手たちが動いてゴミを集めてくれるようになったんです」

聞けば、シーズン中から森下の他にも熊谷敬宥や小幡竜平、前川右京といった中堅、若手メンバーが率先して、最後にベンチを掃除してくれているらしい。そこに捕手用の防具を片付け終えた坂本も加わった場合、日本シリーズ初戦の試合後のような流れが出来上がるのだという。

「試合に出ている選手は自分の荷物もあって大変ですけど、それでもポケットやヘルメットに入れて持ち帰ることはできますからね。プロ野球選手になったから、誰かが掃除してくれるからゴミを拾わない、というのは嫌なんです。球場にいる時は野球選手かもしれないけど、そんなの僕たちを知らない人からすれば関係のない話ですから」

もちろん、他球団にも同じような試みを続けている選手はいるのだろう。そもそもゴミを拾えば勝てるほどプロ野球の世界は甘くはない。とはいえ、阪神ナインの姿勢が周囲に前向きな感情をくれるのは事実だ。

「それが野球につながると考える人もいるだろうし、つながらないと考える人もいる。人それぞれ考え方はあるでしょうけど、あの大谷翔平選手だってゴミを拾うんですから。タイガースの若い選手も続けてくれているのは素直に『いいな』と思いますけどね」

38年ぶりの日本一を成し遂げた23年阪神。「野球の神様」がほほ笑みたくなるチームだったのは間違いなさそうだ。【野球デスク=佐井陽介】

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