世界一の子は、次元が違った。ヤクルトのドラフト4位の鈴木叶(きょう)捕手(17=常葉大菊川)が22日、新人合同自主トレで強打をかました。

埼玉・戸田球場のバックスクリーン後方のボード最上部に2発を直撃。推定飛距離150メートル級を記録した。06年の第1回WBCで日本が初優勝した日に生まれた17歳。自身の大きな夢を“叶”(かな)えるため、アピールを続けていく。

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落ちない。鈴木の放った打球は、中堅122メートルを軽々と越えた。バックスクリーン後方に設置された高さ約12・1メートルのボードのやや左寄りの最上部に直撃。レッドソックスの本拠地にそびえる約11・3メートルの巨大左翼フェンス“グリーンモンスター”のような“戸田モンスター”に「カンッ!」と乾いた金属音がこだました。推定飛距離は150メートル級。一塁側ベンチ前では先輩、スタッフのギャラリーが発生していた。先輩捕手の西田は「えぐいって」と目を丸くしていた。

フリー打撃の締めで今度はボードのやや右寄り上部に直撃させた。過去には村上が1年目にロングティーでモンスター越えを記録。鈴木も負けじと181センチ、81キロのスラリとした体形から10発の柵越えを記録。うち2発がモンスター弾と大物の予感を漂わせた。「身体能力発揮できました」。あどけない笑顔は、10代らしさを感じさせた。

特別な日に生まれた男は次元が違う。06年。米国の現地時間3月20日。第1回WBCで、日本は初優勝を収めた。歓喜に沸いた日本時間の3月21日。静岡の鈴木家でも、喜びの産声が上がった。叶が生を受けた日。名前の由来も、WBCにちなむ。父・剛さんは「WBCで日本の夢が叶った日、自分の夢も叶えてほしい」と命を吹き込んだ。

夢はまだ道半ば。17歳を迎えた翌日の23年3月22日。甲子園にいた。センバツ2回戦で専大松戸と対戦。米国時間3月21日では、現地で大谷翔平のえぐい帽子投げのころか。甲子園の2回には、大型スクリーンに「WBC 日本代表 世界一 おめでとう!」の文字が流れた。鈴木は聖地に立つ夢は叶えたが、試合には敗れた。昨夏の甲子園に戻る夢も叶えられなかった。

故障もあり、U18日本代表には選出されなかった。ヤクルトの橿渕スカウトグループデスクが「故障がなければ高校日本代表の正捕手だった。そもそも、4位で取れると思わなかった」と期待する逸材。プロ入りの夢は達成したが、その先がある。「WBC、オリンピック、いろんな国際大会があると思うので、いずれ選ばれるようにやっていきたい」。春季キャンプは2軍スタート。世界一の子は、大きな夢へ向かって成長を続ける。【栗田尚樹】