日本を代表する総合格闘家堀口恭司(28)が11月14日、けがとそれに伴う大みそかRIZIN20の欠場を発表した。けがの内容は右膝前十字靱帯(じんたい)断裂と半月板損傷。既に手術を受け、全治には10カ月を要するという。8月のRIZIN18大会で敗れた朝倉海(26)との注目の再戦は流れることとなった。

格闘技ファン、関係者の落胆はもちろんだが、1番心を痛めているのは堀口に違いない。会見前にA4用紙で配られたコメントには「申し訳ない」の言葉が6度。悔しさが行間に強くにじんでいた。そのコメントによれば、春過ぎから体の各所に痛みや違和感を感じていたという。だが、「まー、大丈夫でしょ。気合で何とかなるでしょ!」とそのまま6月の米ニューヨークでのベラトール222に出場し、同団体世界バンタム級王座を獲得。続く8月のRIZIN18では朝倉にまさかの1回68秒KO負け。ダメージが取れた10月後半から本格的な練習を再開したが、「ギリギリ首の皮一枚つながっていた靱帯(じんたい)が悲鳴をあげました」。気付かぬふりをしていたが、体は正直だった。

なぜ、そこまで自分を追い込んだのか。8月にインタビューした際の堀口の言葉が浮かぶ。普段米フロリダにある名門「アメリカン・トップチーム」で練習する堀口は、元UFCフェザー級王者マイク・ブラウンコーチら優秀なスタッフに支えられている。だが、彼らとは別に、今も“目”を感じる2人がいる。昨年7月に他界した空手の師匠二瓶弘宇さんと、同9月に亡くなった総合格闘技の師匠山本“KID”徳郁さんだ。

2人がこの世を去り1年がたつが、「アメリカにいたので、亡くなったという感じがしない。いい意味で悲しくない。会いたいなとも思いますけど、どっかにいるんじゃないかな」。2人の存在がより近くに感じられるようになったと話していた。「これをしたら怒られる、練習しなかったら怒られるとか、いつも思います」。常に口にする「格闘技界を盛り上げる」ため、「強くなる」ため。そして、師匠に対して恥じない姿であるため。必死に修業に励み、故障してしまった堀口を責めることはできない。

夢がまだある。「もっと格闘技を人気にして、少しでも多くのこどもたちに見せたい。格闘技を通じて、人の痛みをわかる大人になってほしい」。目指すのは、自分が少年時代にK-1、PRIDEを見て体感した格闘技ブームの再来だ。

試合ができる状態までどれだけ時間がかかるのか、現段階では分からない。「新たに、強くなった堀口恭司をお見せできるように」。その言葉を信じ、あの笑顔がリングに戻ってくるのを待つ。【高場泉穂】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)