西前頭5枚目貴景勝(21=貴乃花)が、横綱日馬富士をはたき込みで破って初金星を獲得した。所要19場所目は年6場所制となった58年以降で7位のスピード記録で、師匠貴乃花親方(元横綱)の20場所目を抜いた。同学年の親友でありライバルの平幕阿武咲に刺激を受けて奮闘している。
貴景勝の胸には、燃え上がるものがあった。5日目に親友の阿武咲が初金星を奪い、「俺が先に行きたかったです」と悔しがった。遅れること5日。「あまり覚えていない。頭の中が真っ白で何を考えているのか分からない」と、無我夢中で初金星をつかんだ。
必死の一番だった。「胸を借りる気持ち」で正面からぶつかり、両腕を伸ばして距離を取った。顔を張られてもひるまない。つかまえに来られては突き放しを4度繰り返し、5度目のタイミングで体を開いてはたき込む。体を泳がせた横綱は両手を土俵についた。一呼吸置き、座布団が舞った。
活躍する阿武咲に負けじと存在感を示した。「昔はめっちゃ仲悪かった」。兵庫出身の貴景勝は小学から高校まで、全国大会で何度も顔を合わせた青森出身の阿武咲と、しゃべった記憶はない。むしろ「なんやあいつ」と気に食わなかった。しかし、転機は中学3年時の全国大会。前年優勝者の阿武咲に、決勝で初めて勝って優勝した。「その時にライバルだと思った」。意識が変わった。
角界入り後、同じ貴乃花一門での出稽古や巡業先で一緒になる機会が増え、自然と距離は縮まった。今では「互いに負けたくない。互いに高め合いたい」と、刺激し合う仲になった。
金星に浮かれることはない。「まだまだ相撲人生はある。1つのターニングポイントにはなったが、また明日もあります」と気持ちを引き締めた。これからも長く続く相撲人生。一喜一憂はしない。【佐々木隆史】
幕内後半戦の藤島審判長(元大関武双山)のコメント 貴景勝は横綱にまわしを取らせないという、考えた通りに取れたのでは。日馬富士はもう(星を)落とせないという気持ちが、ぎこちない動きにつながった。動きが軽く圧力も感じなかった。