「ゴモラ」「リアリティー」で国際的な評価を得ているイタリアのマッテオ・ガローネ監督(50)は、心優しき人々が世の中の理不尽に翻弄(ほんろう)される様を容赦なく描くところがある。実話を元にした新作「ドッグマン」(23日公開)もいかにもガローネ監督らしい作品だ。

激しくほえる大型犬に声を掛けながら手際よく洗う小柄な男。主人公のマルチェロは海辺のさびれた町で犬のトリミングサロンを経営している。

妻とは別居しているが、それは協調的なもので最愛の娘とはいつでも面会できる。地元の仲間とサッカーや食事を楽しむ毎日にささやかな幸せを感じている。そんな彼の生活を脅かすのが、暴力的な友人シモーネの存在だ。

マルチェロと周囲の友人たちは、実はほどほどの悪事を働きながら小遣い銭を稼いでいる。このそこそこのワルによる「利益共同体」は、マフィアの国イタリアらしさというべきなのか。ガローネ流の描写がリアルで興味をそそられる。

そんな調和を乱すのがシモーネで、コカイン中毒の彼は仲間内の店への強盗計画など、マルチェロにはとても協力できない「仕事」を次々に持ち込んでくる。仲間内では、外部の人間にシモーネの殺害を依頼しようという話まで持ち上がるが、彼の母親もよく知るマルチェロは友情を断ち切ることができない。きめ細かな演出で、この気弱な主人公に感情移入させられるところがこの作品のミソである。

シモーネの行動や要求はどんどんエスカレートし、ついにはマルチェロが秘めていた暴力的な一面が頭をもたげて…。

マルチェロ役のマルチェロ・フォンテは演技経験は浅いが「目と表情だけでものを語れる」とガローネ監督が抜てきした。確かに見るからに気弱で動作が自然とコミカルに見える様ははまり役だ。すきのない好演に見えたが、どうしても役に入り込めず、監督の指示でアルコールの力を借りたこともあったという。

一方のシモーネ役は、テレビ・シリーズなどで名の知れたエドアルド・ペッシェで、こちらは「肉体改造してもらった」(監督)というほど体を作り込んで筋肉むきむきの乱暴者になりきっている。

2人の「友情」は腐れ縁のようなものだが、ときにせつなく、ぐっとくるところさえある。やりとりを見守る犬たちの目、しぐさも測ったように決まっている。さりげない描写にも、きっと監督の忍耐強い演出があるのだろう。

ラストシーンは嫌になるほど残酷で、つらい。この苦みもガローネ監督ならではの味わいである。【相原斎】