法の境目を行き来するやりとりは、リーガル、クライム…さまざまなサスペンス作品のクライマックスとなって来たが、29日公開の「THE INFORMER 三秒間の死角」は一貫してその線上をつま先立つように進行する。つまりは終始緊張感が続く。

FBIの情報屋ピートは、潜入先のボス「将軍」の麻薬取引現場に捜査官を導き、組織を壊滅させるという最後のミッションに臨んでいる。

これを成功させれば、科せられている刑期20年はゼロになり、最愛の妻子のもとに帰ることができる。

だが、取引現場に向かう途中でニューヨーク市警の潜入捜査官が射殺されるトラブルが起き、ミッションは中止となる。よりによってそのタイミングで将軍はピートに対し、刑務所内に戻り、そこでひそかに行われている麻薬取引を仕切るように命じる。従わなければ妻子の命はない。

ピートからこの経緯を知らされたFBIはこの案に乗り、刑務所内の裏ルート解明と取引の立証で再び将軍の逮捕を狙う。成功すれば今度こそピートは無罪放免のご褒美にありつける。

命がけの隠密行動が始まる。が、潜入捜査官を殺害されたNY市警の執拗(しつよう)な追及に、法スレスレの潜行捜査の発覚を恐れたFBIはピートの「斬り捨て」を決断してしまう。

刑務所内の麻薬組織、NY市警、そしてFBIまでもが敵となったピートは知力と行動力を振り絞って反撃に出るが…。

原作の「三秒間の死角」はアンデシュ・ルースムンド=ベリエ・ヘレストロム共著で英国推理作家協会賞に輝いている。ここまで書いても予備知識レベルでネタバレにはならないくらいの奥行きがある。

刑期20年のピートをなぜ妻子は慕い続けるのか、麻薬組織やNY市警、そしてFBIの裏をかくようなスキルはどうやって身につけたのか。映画は、それを少しずつ明かしながら観客を納得させる構成だ。

イタリア出身のアンドレア・ディ・ステファノ監督は「HOTEL」(01年)や「ダブルフェイス」(09年)などで知られた性格俳優から、伝説の麻薬王を描いた「エスコバル」(14年)で初メガホンを取った人。人物紹介をうまくストーリーに織り込んだ脚本も担当してミステリーの極意をしっかりつかんでいる。

ピート役はスウェーデン出身のジョエル・キナマン。「ロボコップ」の再映画化(14)で注目された人だが、序盤の犯罪者然としたいかつい表情から、徐々に「善玉」の片りんをのぞかせる経緯を巧みに演じている。

情報屋ピートへの同情と組織防衛の板挟みになるFBI捜査官にロザムンド・パイク。悪女も善女もうまい人だがら文字どおりの適役と言えそうだ。

意外な人が味方となり、味方と思った人が実は悪人だったことが分かっていく。敵味方入り乱れて法の境目を綱渡りする間に、法では割り切れない善悪の境目がピートの家族愛を通して浮かび上がる。

1時間53分。緊張感を維持するにはちょうど良い長さだ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)