27日公開の「だれもが愛しいチャンピオン」は、昨年のスペインで国内映画興行収入1位となった作品だ。知的障害者のためのバスケットボール・チーム「アミーゴス」が全国大会決勝に進出するまでの紆余(うよ)曲折を描いたヒューマンドラマ。偏見に満ちた社会に一石を投じながら、ユーモラスな描写で笑わせ、ラストシーンでは留飲を下げる。出演者たちのひたむきさに元気と勇気をもらえる1本だ。SFから人間ドラマまでバラエティーに富んだ作品を手掛けてきたハビエル・フェセル監督(55)の来日を機に話を聞いた。


-脚本(ダビド・マルケス)はハンディキャップ・チームを取材した新聞記事が元になりました。

「ユーモアがほどよく織り込まれた脚本で、一読して笑いながら泣ける内容に感服しました。観客として早くこの作品を見たいと思いました」

-チームの10人のメンバーは実際に障害をもった人たちで、オーディションで選んだと聞きました。

「自然に振る舞うことと演技の間にあんまり違いを感じない方なんです。この題材を撮るためのベストのキャストは何だろうという考えを突き詰めたらこうなりました。彼らが撮影から学ぶことは少なくなかったと思いますが、むしろ私たちスタッフの方が彼らから多くを学びました」

-例えばどんなことを。

「まずは作品への、演じることへの情熱がすごかった。それが私たちに感染した気がします。それから余計なことを考えずにまっすぐに集中する姿は感動的でさえありました。アスペルガーのメンバーはどんなものでも指先で回してしまいます。その才能に驚かされるとともに当然、劇中ではバスケットボールをいとも簡単に回す場面が撮れたわけです。障害ではなく、才能なんですね」

-10人それぞれの個性が際立っていました。

「オーディションで10人を決めてから、脚本のダビドと一緒にそれぞれの行動や話し方、それまでの経験を織り込んで脚本を書き直しました。結果的に当て書きのようになりましたね。例えば測ったように15分ごとに抱擁しなくてはならないメンバーがいました。劇中で監督役のハビエル・ゲティエレスがしたのと同じことを撮影現場で私がしなければなりませんでした(笑い)」

-大変だったことも少なくなかったのでは。

「俳優経験が無い人ばかりなので、基礎から始めなければいけませんでした。でも、彼らは熱意で十分にカバーしてくれました。何より助かったのは、彼らがカメラをまったく意識しないことです。それに自信を持って動いてくれる。だから、無理なく自然な映像が撮れました」

-スペインで大ヒットした原因は何でしょう。

「彼ら1人1人が示した『真実』だと思います。そしてそろって親しみやすいキャラクターですから。見に来てくれた人、みんなの先入観や思い込みを砕くパワーがあったのだと思います」

-これまでの監督5作品はSF、アニメ、今回のようなヒューマンドラマまで幅広い。題材の選び方はどのようになさっていますか。

「毎回、違ったもの、新しいものに挑戦しようと思ってきました。今回は初めて自分のではなく、他人のオリジナル-ダビドの脚本ですが-で映画を撮りました。何より出演者に教わることが多かった。自分だけで突き詰めるよりは幅が広がった気がします。次回作も他の人の考えを出発点に、自分だけでは出来ないような作品に取り組みたいと思っています」

劇中で、プロチームから不本意ながらハンディキャップ・チームを引き受けることになった監督は、思い通りにならない選手たちにてこずりながら、やがては彼らの純粋な心に「本来の人間らしい生き方」を教えられる。「心に問題を抱えているのはむしろ自分だ」と気付かされる。作品のテーマそのままにフェセル監督自身も製作過程で学ぶところが少なくなかったようだ。【相原斎】

◆ハビエル・フェセル 1964年、スペイン・マドリード生まれ。ジャーナリストで監督、脚本家として知られるギレルモ・フェセルは兄。自身は90年代に数本の短編を監督した後、98年、SFコメディー「ミラクル・ペティント」で長編デビュー。スパイ・コメディー「モルタデロとフィレモン」(03年)などの作品があり、ゴヤ賞の常連として知られる。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)