ライザ・ミネリの「キャバレー」を見たのが高校生の時だから、その母親のジュディ・ガーランド(1922~69年)となると、もはや歴史上の人だ。20代の頃に「オズの魔法使い」をビデオで見たのが唯一のガーランド体験である。

「ジュディ」(3月6日公開)は、その最晩年にスポットを当てた舞台「End of the Rainbow」を原作にしている。

ガーランド46歳の冬。映画出演のオファーも途絶え、幼い娘と息子を連れ、彼女は巡業で食いつないでいる。そんな時、まだ人気の根強い英国のクラブから5週間のショーの依頼が舞い込む。子どもたちを元夫に預け、彼女はロンドンに渡る。

アルコールと薬物の常用でボロボロになった体と、それでも衰えない歌唱力。彼女のショーは喝采を浴びたり、ブーイングを受けたり。映画はこのショーを巡るエピソードに、人気爆発寸前の10代半ばの回想シーンを絡める構成で、絶頂時代の様子はすっぽりと抜けている。

だが、ロンドンでの喝采が全盛期の人気を想像させ、スケジュールに追われ、薬漬けにされていく10代の描写で、それでも輝く才能の大きさを実感させる。

ファンの同性愛カップルとの交流は、無垢(むく)な少女のままに偏見を持たなかった彼女と、その優しい心根を印象付ける。10代半ばの出世作「オズの魔法使い」を巡るスタジオボスとのやりとりは、当時の映画界の重圧、スターの宿命とはさもありなんと思わせる。

ロイヤル・シェークスピア・カンパニーなどの舞台演出からスタートしたルパート・グールド監督は、背景となるロンドンの古色蒼然にこだわっている。ほこり臭さが伝わってくるような質感がある。

何よりジュディ役のレネー・ゼルウィガーが素晴らしい。とびきりの美人というわけでもなかったジュディのにじみ出るような魅力をしっかりと体現している。「ブリジット・ジョーンズの日記」の等身大の演技があまりにも印象的だが、今回は文字通りのスターになりきっている。しぐさから唇の形まで寄せ、声にもらしい魅力があふれている。今年のアカデミー主演女優賞も当然だろう。

ジュディの世話係となったジェシー・バックリーも印象に残った。彼女のわがままに手を焼く一方で、その人間的魅力にひかれていく様が手に取るように伝わってくる。ちなみにこの世話係のロザリンさんは存命だそうだ。

最後のステージで歌い上げる「カム・レイン・オア・カム・シャイン」、そして「オーバー・ザ・レインボー」で起こる奇跡。このクライマックス7分間のゼルウィガーのパフォーマンスは息をのむ。資料でしか知らなかったガーランド晩年の生を実感させる。

このステージから時を置かずに47歳で亡くなったガーランドの死から数えて今年は51年目だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

「ジュディ」の1場面 (C)PatheProductionsLimitedandBritishBroadcastingCorporation2019
「ジュディ」の1場面 (C)PatheProductionsLimitedandBritishBroadcastingCorporation2019