1年前の記者会見を思い出す。近年は公開が近づいてから集中的に宣伝活動を行うのが当たり前なので、メインキャストが顔をそろえて丸々1年後に公開される作品の製作発表を行うのは異例のことだった。佐藤浩市、石田ゆり子、西島秀俊、中村倫也、広瀬アリス…とそうそうたる顔触れの「サイレント・トーキョー」(波多野貴文監督、12月4日公開)である。

まず製作発表があり、クランクインの現場取材があり、途中何度か現場をのぞき、数カ月後に試写会で完成品を見る。昨年の会見では、そんな往年の映画との関わりを思い出した。

撮影現場の労苦を知ってしまうと、完成品を見る前からひいき目になってしまうことは否めないが、そこが評論家との違いである。撮影現場の取材を重ねた当時は半ばスタッフ、キャストの思いを代弁しながら情報提供してきたように思う。

今回はひいき目を差し引いても余りある迫力のシーンがある。栃木・足利市に「渋谷スクランブル交差点」をまるっと再現したオープンセットで行った爆発場面だ。手持ちカメラを多用した群集目線の映像は、爆心近くに居合わせたような、ブルッとくる感覚にさせられた。クリストファー・ノーラン作品に似た「実感」である。

「ドラゴン桜」や「アンフェア」で知られる秦建日子さん原作のこの作品は、クリスマスイヴの東京を舞台に爆弾テロを巡る人間模様を描いている。

回想シーンを除けば約7時間のタイムサスペンス。余計な情報は興趣をそぐことになりかねない。「謎の男」にふんする佐藤浩市が会見でコメントに困っていたように、ここでは登場人物の説明を省くことにする。石田ゆり子も中村倫也もひとひねり入れた演技でうならせる。テレビドラマのイメージで見ていると、しっかりだまされる。

テロの動機の根っこには自衛隊がカンボジアに派遣されたPKOがある。そのいきさつは1エピソードに凝縮されている。「99分ノンストップ」の密度の中では無理かもしれないが、もう少し「戦地の荒廃」を見せて欲しかった気がする。

製作発表の時には想像もしていなかったコロナ禍があり、スクランブル交差点はほぼ無人になったり、ハロウィーンでは例年とは違う形でざわめいたり…今までとは違う姿を見せた1年だった。そこでの「爆弾テロ」というインパクトは、製作陣の想定とは微妙に違った形で受け止められるのかも知れない。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)