今年も正月の歌舞伎公演は歌舞伎座、新橋演舞場、浅草公会堂の3劇場で上演されている。演舞場は5月に市川團十郎白猿を襲名する市川海老蔵に、長女市川ぼたん、長男堀越勸玄の共演もあって大入りだが、歌舞伎座で市川団子(15)が初挑戦した「連獅子」、浅草公会堂では尾上松也(34)の、ともに初役の「寺子屋」松王丸、「仮名手本忠臣蔵 七段目」大星由良之助を見て、ちょっと感慨深かった。

松也は今では、若手人気俳優だが、10代から20代にかけては、大きな役もつかずに苦労した。父尾上松助は菊五郎劇団の名脇役だったが、松也が19歳の時に亡くなり、後ろ盾もいなかった。7年前に前田敦子との交際が報じられた時は「松也って誰?」状態だった。

しかし、松也は自らの力で次々と大役をつかみ取り、ミュージカルにも挑戦してきた。そして、浅草公会堂の若手主体「新春浅草歌舞伎」の座長格を務めるようになり、今回の松王丸、由良之助という大役に初挑戦した。由良之助は、昨年12月の京都・南座「顔見世」で片岡仁左衛門が演じているように、芸容の大きさは求められるが、松也は人間味のにじみ出た、さわやかな由良之助を作り上げていた。これから、何回も演じられるだろう松也・由良之助のスタートを見られたことも、歌舞伎見物の楽しみの1つでもある。

団子も、市川猿之助との「連獅子」で、正真正銘、歌舞伎俳優の仲間入りを果たしたと言えるだろう。8年前、父香川照之が市川中車を襲名して歌舞伎界入りした時に、初舞台を踏んだ。その時は7歳で、以降も同世代の市川染五郎とともに、「鏡獅子」の胡蝶や納涼歌舞伎で幸四郎・猿之助の「東海道中膝栗毛」に出演したが、まだ「子役」としての認識だった。

しかし、今回の「連獅子」は、親獅子の猿之助に対し、仔獅子の団子も負けていなかった。沢瀉屋の「連獅子」は毛ぶりの手数の多さ、激しさで知られるが、何度も毛をたたきつける迫力に、観客の大きな拍手が鳴りやまなかった。172センチの団子は、父、猿之助の身長をすでに超えている。

香川の歌舞伎界入りは、団子に「市川猿之助」を継がせるという思いがきっかけだった。香川は3代目猿之助(現猿翁)と浜木綿子との間に生まれたが、幼いころに両親が離婚し、浜に引き取られた香川は歌舞伎とは無縁だった。しかし、息子の誕生で、「猿之助の名前は140年続く。長男が生まれて、この船に乗らないわけにはいかない」と、親子で歌舞伎界入りした。しかし、父の思いを息子がしっかりと受け止めない限り、猿之助襲名は実現しない。その点、団子は歌舞伎が好きで、何よりも努力を重ねている。団子は父を評して「努力の人」と言っているが、真摯(しんし)に取り組む沢瀉屋のDNAは確かに継承されている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)