現在、歌舞伎座は4部制で公演が行われています。各部1演目で、上演時間もそれぞれ1時間前後と短い。第1部が午前11時開演で、最後の第4部は午後7時15分開演ですから、午後8時15分には終演します。

2部制の時はというと、昼の部は午前11時に開演。3~4演目上演されて、午後3時ごろに終わり、夜の部は午後4時半開演で、同じく3~4演目の上演で、午後9時ごろに終演していました。

中村勘三郎さんや坂東三津五郎さんらが中心となって90年から始めた8月の納涼歌舞伎や、13年の歌舞伎座こけら落とし公演の時には3部制となり、各部2~3演目が上演されていました。

江戸時代はというと、朝6時ごろに芝居が始まり、通常は夜6時ごろに終わっていました。電気がない時代ですから、夜明けととも芝居が始まり、夜になると芝居が終わるという感じだったようです。ただ、新しい狂言などの場合は特別に夜8時ごろまで上演されたそうです。芝居見物ともなると、まさに1日がかりだったのです。

そして、今のような2部制になったのは大正時代でした。400年の歌舞伎の歴史の中で、2部制は100年ほどの歴史というわけですが、それがコロナ禍で揺らいでいます。

先日、人間国宝で立女形の坂東玉三郎さんが出席したイベントを取材した時、コロナ禍で歌舞伎公演が4部制になっていることについて「朝(午前11時)から4時間やって、夜は午後4時ごろからやるという興行形態を考え直す、いい機会になるんじゃないでしょうか」と話していました。玉三郎は現在、歌舞伎座で午後7時15分開演の第4部に出演していますが、「今まで(4部制は)なかったけれど、こういうものに慣れれば、もっと短い時間で歌舞伎を楽しみたいというお客様も出てくると思うんです」と続けました。

歌舞伎座の1カ月興行の場合、25日間休みなしが慣例だったけれど、2、3年前から市川海老蔵が「働き方改革」を唱え、今年1月に4月から休演日を設定することが発表されました。しかし、直後にコロナ禍が襲い、歌舞伎公演そのものが8月まで中断しました。

玉三郎さんは何も4部制を推奨しているわけではなく、時代とともに興行形態にも多様性があってもいいのではと提言したのでしょう。大正時代から続く昼夜2部の興行形態も、コロナ禍をきっかけに変革を求められるかもしれません。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)