著書の「首都感染」を手にする高嶋哲夫氏(2020年8月12日撮影)
著書の「首都感染」を手にする高嶋哲夫氏(2020年8月12日撮影)

日本を含む東アジア地域では、なぜ新型コロナ死者数が少ないのでしょうか? ノーベル医学生理学賞受賞者で京大iPS細胞研究所の山中伸弥教授(57)が「ファクターX」と呼び、早期の解明を呼び掛けている「なぜ」。今回のコロナ禍で現実に起きたこととあまりも酷似していると話題になっている小説「首都感染」(講談社文庫、2010年刊)の著者、高嶋哲夫氏(71)に「ファクターX」について聞きました。

現在、世界最悪の感染状況となっている米国は感染者数約590万人、死者数が18万人を超え、欧州の主要国でも万単位の死者を出しています。日本の死者数は8月下旬現在で約1200人。世界的には感染被害が比較的、抑え込まれているほうでしょう。

コロナ禍の「予言の書」とも言われる「首都感染」の著者、高嶋氏は「ウイルスの専門家ではありませんが」と前置きした上で、こう分析します。

「死者数がアジアで少ないのはかつて新型コロナウイルスに似たSARS、MARSに感染し、ある程度の免疫ができているという見方もできます。これは僕の個人的な感覚ですけど、欧米よりも多少は免疫系が強いのかなという気がします」

過去、新型コロナウイルスと似たウイルスに感染した人の発症が抑えられたり、感染しても体内でウイルスが増殖するのを抑え、無症状で済む現象は「交差免疫」と呼ばれています。免疫細胞の「過去の記憶」が新型コロナでも働く-。過去に類似のウイルスに感染したことで、未知のコロナウイルスに対しても、一定の免疫を獲得している-。世界では、このコロナに関する「交差免疫」の論文や研究が報告されています。

「ファクターX」として欧米との生活習慣の違いを指摘する声もあります。「キスや握手の回数が少ない」など肉体的接触、「手洗いやマスクの習慣がある」の衛生習慣などの文化的要因です。

「いろいろな説がありますが、単に生活習慣の違いとは考えにくいですね」と高嶋氏。他の要因として「重症者が少ない1つの要因として医療体制が整ってきたからだと思う。どういう薬を投与すれば、回復するか。先日、知り合いの医師に聞くと、アビガンについては、初期のときはよく効くと。ノウハウが出来てきたのでしょうね」。

「ファクターX」。科学や医学が発達した現代でも、まだ分からないことだらけです。元科学者でもある高嶋氏は「相手が目に見えないウイルスということで必要以上に恐怖を抱いてしまった。(ファクターXは)世界が協力して調べるべきでしょう」。日本でも世界でも研究が始まっています。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

仕事場で執筆活動を行う高嶋哲夫氏(2020年8月12日撮影)
仕事場で執筆活動を行う高嶋哲夫氏(2020年8月12日撮影)