戦後初の東西長期休止を経て、兵庫・宝塚大劇場では17日に、130日ぶりに花組公演から再開した。花組新トップ柚香光(ゆずか・れい)は、17年に主演した自身の再演作で、本拠地お披露目「はいからさんが通る」の初日を迎えた。約4カ月遅れで大羽根を背負い「押しつぶされないような芯を持って」。重みを実感し、第1歩を踏み出した。宝塚は9月5日まで。東京宝塚劇場公演は10月10日~11月15日に決まった。【取材・村上久美子】

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格子状に座る客席のファン、立ち見は新様式の最大とはいえ20人ほど-。新たな形で迎えた130日ぶり公演で、柚香は本拠お披露目の幕を開けた。初日前には、柚香が相手娘役華優希とともに、思いを語った。

柚香 (再開は)本当にたくさんの方々がたいへんな思いをし、闘い続けた結果であり、そのような方々の思いを裏切ることがないように。私たちの公演が、どのように日々を重ねていけるかによって、宝塚だけではなく、エンタメ業界に影響してくると思うので、その辺りも責任を感じ、最善を尽くしたい。

観客収容や換気、楽屋や稽古場など密への懸念から、舞台界は手探りが続く。華にも同じ覚悟はある。

華 中止期間を経て、今まで以上に皆さまに感謝の気持ちをお返しできるように、努めてまいりたい。

当初は3月13日開幕予定で、いったんは2月上旬に稽古で集合した。その後、自粛に入り、期間中は自宅やリモートで自主稽古。6月30日が再集合日だった。

柚香 自粛中はまず第一に(再開へ向け)より良い舞台をお届けできるよう状態を整えておく。今まで目を向けられなかったことに時間をさき、向き合う日々でした。自宅で、ほんとに限られたスペースの中で。

華 私も己を磨けるよう1日1日大切に過ごしていきたいと思って。精進を忘れることのないように。

再開が決まり、組での稽古が始まると、柚香は意外な思いを感じたという。

柚香 (再開時は)久しぶりに皆に会えて喜びが高まって、思わずソーシャルディスタンスを忘れてしまうかと懸念していたんですけど、いざそうなると、それぞれ、1人1人が(自粛中も再開後も)どうすべきかを考えていて。おのおの自覚を持った空気が稽古場に充満していて、皆の空気に助けられ感動しました。

今まで背を見てきた大羽根の重みは格別だった。

柚香 まず、素直に重い…と。(自粛中に体調を整え)たくさん寝て、健康な状態で背負っても重くて。毎日、毎日、あの照明を浴びながら、皆さん立ってらしたんだな-と。今までの方々の背中を思い出すと、当時も尊敬の思いでいっぱいだったんですけど、実感をもって背中を思い出しました。でもやはり、階段から羽根を背負って皆の笑顔が見えた瞬間は、何にも代え難い愛にあふれた空間で、羽根の華やかさに押しつぶされないような芯を持って、背負っていきたい。

4カ月遅れて踏み出した新トップとしての第1歩。

柚香 この状況の中で、それも大正時代の(戦争や関東大震災など)苦難を描く物語をこのタイミングでお届けする。ただ新しい幕開きというより、お客さまにも勇気をもって歩みだしてもらえるよう、皆さまが「来て良かった」と思ってもらえる舞台を届けたい。ただ。それだけです。

◆ミュージカル浪漫「はいからさんが通る」(原作=大和和紀、脚本・演出=小柳奈穂子) 75~77年に「週刊少女フレンド」で連載された大和和紀氏の「はいからさんが通る」が原作。大正時代の東京を舞台に、眉目秀麗で笑い上戸な陸軍少尉・伊集院忍と、女学生・花村紅緒が繰り広げる恋物語。78年にテレビアニメ化、その後も映画、ドラマ化。17年には劇場版アニメが公開され同年、宝塚でも、柚香光と華優希のコンビで大阪、東京で舞台化された。今回は宝塚大劇場、東京宝塚劇場に移し、バージョンアップ。フィナーレは2パターンあり、演出に大きな変更はないが、エンディングの出演者数は60人以下の登壇に絞る。