2019年もたくさんのドラマが放送され、心に残るすてきなせりふも多々あった。来年もいいドラマに出会えるといいなという期待を込め、10本ほどメモしてみた(放送順)。

◆「20年何もしない八雲さんにも、十何年ぶりにフラッと出てきたやつにも、取られるつもりねぇから。引っ込んでろ。俺んだよ」(TBS1月期「初めて恋をした日に読む話」)

塾講師の深キョンに片思い中の受験生、ゆりゆり(横浜流星)が、社会人の恋敵たちにライバル心をむき出しにした6話の新展開で。二次元のパワーワードが生身でハマる横浜流星の登場に久々にラブストーリーのジャンルが活気づき、「好きで好きで、嫌いになりそうなくらい好きです」にクラッときた。「勉強して覚えた知識は君のもの」。深キョンサイドもいいせりふの宝庫だった。

◆「男と女が引かれ合おうと、女と女が引かれ合おうと、男と男が引かれ合おうと、鼻血が出るメカニズムは同じです」(日本テレビ1月期「家売るオンナの逆襲」)

異性ではない人を好きになった部下から鼻血の相談を受けた三軒家チーフ(北川景子)の言葉。さまざまな作品が言葉を尽くしてきたテーマだけに、すごい切り口でシンプルに言い切るアプローチに感銘を受けた。自分の言葉を持っている変人ヒロインゆえ、正論と暴論の行方に毎週聞き応え。泉ピン子と“吹きだまり論”の応酬となった2話は、どちらのせりふもわくわく聞いた。

◆「誰でも自分の持っているカードで戦うしかないの。私だってそう」(TBS1月期「グッドワイフ」)

16年ぶりに弁護士復帰したヒロイン(常盤貴子)に、事務所のトップ(賀来千香子)がかけた言葉。スキャンダルで夫が失脚し、子どものため弁護士復帰という事情を「私なら逆手にとってアピールする」として。「今のあなたのカードの中で私が欲しいのはそれだけ」。したたかでしぶとい女性は大好き。

◆「エンターテインメントの前には史実も道を譲る」(NHK BSプレミアム3月「スローな武士にしてくれ」)

8K時代の最新機材で、池田屋事件のパイロット版を撮ることになった古参監督、国重五郎(石橋蓮司)語録。何を描くにも時代考証、という窮屈な風潮をあっさり押し通り、ハイテクにこそ昭和のバカテクを生かしていく国重イズムが痛快だった。名だたる映画人の名言に、シレッと国重語録が並べられていて笑う。ほかに「2人の男と2本の刀があれば、映画は作れる」など。

◆「ねえ安藤くん。前に、同性愛者がなぜこの世に生まれてくるか分からない、みたいなこと言ってたでしょ。その答え、私分かったかも。神様は、腐女子なんじゃないかな」(NHK4月「腐女子、うっかりゲイに告る。」)

同性愛者の高3男子と、BL(ボーイズラブ)漫画マニアの腐女子の青春ラブストーリー。たくさん悩んで成長した安藤くん(金子大地)と三浦さん(藤野涼子)は最後に別れを選ぶけれど、2人が出したポップでキラキラした答えに、私も安藤くんと同様「あきれるほど納得」した。安藤くんがチャットの友人、ファーレンハイトと交わす知的な会話も生き生きと独創的。

◆「今日が無事に終わらなければあしたは来ない。あしたが来なきゃ、あさってもない。100年後というのはな、そういったかけがえのない毎日の積み重ねでやってくるんだ。目の前の命を犠牲にするやつに、未来は救えない」(TBS4月期「インハンド」)

抗ウイルス剤開発のために村を実験台にした研究者に、寄生虫学者の主人公(山下智久)が言った言葉。真の天才と、ダークサイドに落ちる二流は何が違うのか、これほどシンプルに言い当てた言葉はないのでは。主人公が豪語してきた「100年後、200年後も残る天才的な研究」の意味が胸に落ちる。科学の分野に限らないセオリー。静かな口調に断固とした信念が宿っていたのもいい。

◆「私たちの中には殺意がある。でもこの憎しみや殺意は、実は愛情の裏返しなんだって、そういう風には考えられないかな」(フジテレビ4月期「ストロベリーナイト・サーガ」)

姫川警部補(二階堂ふみ)が部下の菊田(亀梨和也)を救出するため、立てこもり犯に訴えた言葉。自身も犯罪被害者として、犯人と同じようなダークサイドを抱えてきた姫川だからこその境地に救いがあった。脚本10ページ、7分間に及ぶせりふの力はネットでも話題に。職場で泣くタイプのヒロインが量産される中、歯を食いしばって生きる姫川の言葉はどれもかっこよかった。

◆「今後。そんなものありません。俺の選手生命は今日で終わりです。GMには心から感謝しています。あなたに会えてよかった」(TBS7月期「ノーサイド・ゲーム」)

トキワ自動車ラグビー部のエース浜畑(広瀬俊朗)が君嶋GM(大泉洋)に。飾らない言葉の万感が染みた。元ラグビー日本代表主将の広瀬は俳優初挑戦。チームの精神的支柱として、にじみ出るオーラはこの人にしか出せないものだった。君嶋も名ぜりふの山。「サラリーマンに努力賞なんてないんだよ」「最後にボールを持っていたやつの勝ちだ」のくだりは全文書き留めたい聞き応え。

◆「泣いてはダメですよ。楽しくしてればこっちの勝ちだ」(TBS10月期「G線上のあなたと私」)

バイオリン仲間を自宅に招いての練習会が、しゅうとめさんのいびりで散会に。見送りながら悔し泣きする専業主婦(松下由樹)を、大学生(中川大志)がこの言葉で励ます。負のループの時に思い出したい明快なヒント。どこかで使えそうな身近さもいい。説得力のあるさっぱりとした笑顔にも救われた。

◆「男は負けても帰れるでしょ。でも女は帰れません。負けたら『やっぱり女はダメだ』と笑われます。日本の女子選手全員の夢が、私のせいで絶たれてしまう」(NHK大河ドラマ「いだてん」)

女子アスリート編、人見絹枝さん(菅原小春)のせりふ。メダル確実だったアムステルダム五輪女子100メートルで4位に沈み、未経験の800メートルへのエントリーを願い出る。ぼろぼろ泣いてその場の男性すべてに頭を下げて訴える姿にネットも号泣。前畑秀子も東洋の魔女も、クドカンが描く女性は常に強くてかっこよかった。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)