長澤まさみ(33)が第33回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞で主演女優賞に輝いた。これまで新人賞、助演女優賞を獲得しており、デビュー20年で3冠制覇となった。

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「賞がいただけると思っていなかったので、とてもうれしいです。スタッフの方々が喜んでくださったことがうれしく、ホッとしました。作品が人の手に届いて、自分の中で一段落着いた気がします」と、主演らしい責任感を見せ喜んだ。

対象作は2作。「MOTHER マザー」(大森立嗣監督)では、息子にゆがんだ愛情を注ぐ母を、人気シリーズ「コンフィデンスマンJP プリンセス編」(田中亮監督)では、詐欺師を表情豊かに演じた。表彰では、振り幅の大きさ、「MOTHER-」の母を迷いながら作り上げたであろうことがたたえられた。長澤は「私はまさにそういうタイプで、これでいいのか自問自答を繰り返すんです。実力と可能性の折り合いをつけていくための迷いなんですが、それに付き合ってくれた大森監督、周りの皆さんには感謝しかありません」と話した。

00年に東宝シンデレラオーディションでグランプリを獲得、映画「クロスファイア」でデビューした。20年たっても忘れられない、共演者の言葉がある。「私は何を聞かれても答えられないくらいシャイで、周りは芸能界に向いてなさそうだと感じたと思います。桃井(かおり)さんがそれを見て、いたずら心で『辞めてもいいのよ~』って。こうしなさい、こう考えなさいという含みは一切ないんです。周囲はあたふたしてましたけど」と笑った。

桃井の言葉が自分の中で立ち上がり、自分なりに解釈できたのは大人になってからだ。「自分の決断で辞めることも続けることもできる。お芝居をすることは曖昧ではかないものだけど、情熱さえあれば続けていくことは必ずできる。その先に、もしかしたら自分のつかみたい何かが待ってるかもしれない。…そう思うと本当に夢のある仕事だと今は感じています」。

7年前に出演した台湾ドラマ「ショコラ」の経験も大きい。「こんなにうるさい中で撮影するの? っていうぐらいの撮影環境なんですが、みんな気にしないんです。若い時、泣かなきゃいけないお芝居で、音がうるさくてピリピリしてたこともありましたが、自分が集中すればいいだけの話。こうじゃなきゃダメはないと学んで、何も気にしなくなりました。どんな状況でも求められたことに対して自分の集中力を高められる人でありたい」。

キャリアを重ねるごとに責任感は増すが、肩に力は入っていない。「楽しくなって良かったです、お芝居が。楽しいからお芝居がしたいと思える今がある。これから先も自分におごることなくお芝居と向き合っていきたいです」。経験が長澤を強くしている。【小林千穂】

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主演女優賞の長澤はこれまで、04年「世界の中心で、愛をさけぶ」(行定勲監督)で新人賞、15年に「海街diary」(是枝裕和監督)で助演女優賞を獲得している。

今年は新型コロナウイルス感染対策のため、授賞式の開催はなく、表彰と取材を同時に行った。長澤は「何度か出席させてもらっていますが、華やかさに緊張した思い出があります。でも、今日もどぎまぎしました」と喜んだ。

これまで、新人賞、助演賞、主演賞の3つの賞を取ったのは長澤を含めて5人。宮沢りえ(47=89年新人、02年助演、14、16年主演)、鈴木京香(52=94年新人、97年助演、02年主演)、宮崎あおい(35=02年新人、11年主演、16年助演)、蒼井優(35=06年新人、10年助演、17年主演)。

同じ賞を3回取ったのは、18年に亡くなった樹木希林さん(享年75)で、助演女優賞を07、12、18年に受賞している。

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◆長澤(ながさわ)まさみ 1987年(昭62)6月3日、静岡県生まれ。00年に東宝シンデレラオーディションでグランプリ獲得。同年、映画「クロスファイア」でデビュー。映画は「世界の中心で、愛をさけぶ」「モテキ」「海街diary」「キングダム」など。来年は「すばらしき世界」「マスカレード・ナイト」「シン・ウルトラマン」などの公開が控える。168センチ、血液型A。

◆MOTHER マザー 秋子(長澤)は、息子周平を溺愛しながら、借金を重ね、パチンコや酒におぼれる毎日を送っていた。ホストの遼(阿部サダヲ)と共謀して、市役所職員を脅すが、遼が誤って相手を刺してしまう。逃げるためラブホテルを転々とするうち、妊娠したことが分かる。5年たち、周平(奥平大兼)は17歳になり妹もできた。ある時、遼が秋子たちの元に戻ってきた。大森立嗣監督。

◆コンフィデンスマンJP プリンセス編 世界有数の大富豪、フウ一族をターゲットに、10兆円の資産を狙って、ダー子(長澤)、ボクちゃん(東出昌大)、リチャード(小日向文世)らがだまし合いを仕掛ける。ドラマから映画になった人気シリーズで、映画第2弾。田中亮監督。

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▽選考経過・主演女優賞 長澤まさみについて「振り幅の広さがあった。女優根性を感じた」(神田紅氏)「好感の持てる役柄のイメージを捨てた、悪女ぶりは見てて楽しかった」(渡辺武信氏)などと評価された。1回目の投票で過半数獲得。

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★昨年「蜜蜂と遠雷」で主演女優賞を受賞した松岡茉優(25) このたびは主演女優賞受賞おめでとうございます。以前、大河ドラマ「真田丸」で共演させていただいた時、私は若手女優らしい悩みを抱えていました。そのことを、ぽろっと話した時、長澤さんがくださった言葉が今も、私を奮い立たせ続けてくれています。格好いい先輩がいると、後輩はこんなにも歩みやすい。そのうち私も、長澤さんのような格好いい人となり、後輩に歩きやすい道を作ってあげたいです。