俳優の伊東四朗が来年6月に卒寿(90歳)を迎えるのを区切りに引退することを発表した。先日、ラジオのレギュラー番組出演後に囲み取材に応じ、「うまいこと辞められたら一番だなと思って今までやってきました」などと笑顔で話した。デビュー68年、健在な話術にまだまだ惜しいと思った人は少なくないはずだ。

昨年6月の米寿(88歳)の節目にインタビューする機会があった。この時には、人並み外れた記憶力に驚かされた。

「60代、70代はまだまだ青春だと思っていましたけど、あっという間に88歳ですから。68州(日本の旧行政区分)はまだ全部言えますけど」と言うと、実際にそらんじてみせた。

話はデビュー前にも及んだが、まるで頭の中の引き出しを開けるように質問にピタリと合わせた答が出てきた。

「まだ10代の頃ですがね、学園祭用に書いた台本を誰かに読んでもらおうということになった。なぜか顔が浮かんだのが(二世)尾上松緑さんで、今考えると汗顔ものですが、いきなり歌舞伎座を訪ねたんですよ。もちろん、楽屋口で足止めです。で、門前払いの間際にたまたま松緑さんが入ってきた。『学生さんは大事にしなきゃだめですよ』と守衛の人を戒めて、なんと楽屋に通してくれたんです。で、台本を読んでくださって『女形も出るのか』と意見を聞くために名代の女形の方まで呼んでくださったんです。あれが(芸能界入りの)原点ですね」

てんぷくトリオで絶大な人気を得た後、俳優としても活動の幅を広げた。「怖い顔」のシリアスな演技も評価されたが、「喜劇役者」の思いを貫いた。

「どの役柄も人間だから少なからず矛盾をはらんでいる。詰めていくといつの間にか面白い芝居になっちゃう。結局は喜劇に行き着いちゃう」

三木のり平さん(99年74歳没)との共演は感激だったという。

「『喜劇 雪之丞変化』(91年)のボケとツッコミは財産です。何回ツッコんでもわぁわぁウケた。それが三木さんには気に入らない。江戸っ子ですから。『四朗ちゃん、あそこは2回までにしよう』と。3回、4回は粋じゃないって。そんな三木さんには華があった」

そんな先輩の背中を見たからだろう、小松政夫さん(20年78歳没)とのコンビでウケた「電線音頭」もあっさり終えた。

「結婚式の余興の定番にまでなったけど、ずっとやめどきを考えてました。だらだらやったらやぼになります」

一方で、渡瀬恒彦さん(17年72歳没)が歴代最多54回「十津川警部」役を演じたドラマシリーズではずっとコンビの刑事を演じた。

「十津川警部はいろんな人がやりましたが、私はずっとあの人(渡瀬さん)だと思っています。亡くなるなんて、もったいなかった」

自分の芸にはやめどきを課すが、代えがたい主演俳優はどこまでも支える。伊東の美学がうかがえる。

そして、惜しまれながら卒寿での卒業-カッコ良すぎる。【相原斎】