将棋の第33期竜王戦挑戦者決定戦3番勝負第3局が19日、東京・千駄ケ谷「将棋会館」で行われ、羽生善治九段(49)が丸山忠久九段(50)を午後9時31分、99手で下した。対戦成績を2勝1敗とし、挑戦権を獲得した。羽生の竜王戦登場は2年ぶり。2018年の第31期竜王戦で挑戦者の広瀬章人八段(33)に敗れ、27年ぶりに無冠になって以来のタイトル戦だ。現在タイトル通算獲得99期。100期目がかかる豊島将之竜王(30)との7番勝負第1局は10月9、10日、東京都渋谷区「セルリアンタワー能楽堂」で行われる。

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2年ぶりのひのき舞台まであと1手、羽生の手は震え気味だった。99手目、先手7一龍。2分考えた丸山が投了すると、深々と一礼した。相手が得意とする一手損角換わりに対し、手堅い指し回しで反撃のチャンスを待つ。「序盤から見通しが立たない感じだった」と振り返る。79手目の先手1一馬で香を取る。83手目の先手2九香と打ち、2八にいる飛車を取りにいく。「良くなった」と判断した。

挑戦者決定戦3番勝負は第1局に星を落とした。「1手ずつ丁寧に指していこう」と連勝。逆転で挑戦権を獲得した。

27日には、50歳となる。竜王戦7番勝負で50代の棋士が登場するのは、初めてだ。「機会を生かせて良かった。50歳になっても出られるのは棋士として名誉なこと。満足することなく、励みにして前に進んで行けたら」と話した。

2年前、当時の最年長登場者として広瀬に敗れて竜王を失うと同時に、27年ぶりの無冠となった。昨年も王位戦でタイトル戦登場のチャンスはあった。挑戦者決定リーグ戦白組で4勝1敗の同星で並んだ永瀬拓矢叡王(28)を下し、史上最多の1464勝を達成した。だが、挑戦者決定戦で木村一基九段(47)に敗れた。

タイトル戦の登場すらない日々。「課題がありすぎ。最新の将棋を理解しているかは分からないが、後れを取らないように心掛けている」と言う。

竜王戦といえば、89年に初めて獲得したタイトルでもある。以来、延々と積み重ねてきたタイトルは全部で99(竜王7、名人9、王位18、王座24、棋王13、王将12、棋聖16)。今回、通算100期がかかる。

豊島竜王には14年王座戦、15年棋聖戦で勝ったが、17年棋聖戦で敗れ、彼の初タイトル獲得の引き立て役となった。7番勝負では初めて激突する。その豊島は昨年の棋聖、王位、今年は名人と、獲得したタイトルの初防衛に失敗している。

それでも、「最新の形に精通し、攻めも守りもミスがない」と羽生は冷静に分析。「気力を充実させて臨みたい」と、自らからを奮い立たせる。

18年以降、棋王と王将を防衛している渡辺明3冠(36)を除き、将棋界ではタイトルを防衛した例がない。まさに戦国時代だ。羽生にも付け入るスキは、十分ある。 【赤塚辰浩】

◆羽生善治(はぶ・よしはる)1970年(昭45)9月27日、埼玉県所沢市生まれ。その後、東京都八王子市に転居。小1で同級生から将棋を教わる。85年、加藤一二三、谷川浩司に次いで3人目の中学生プロ棋士(四段)に。89年に竜王となり初タイトル。94年、名人を初めて獲得。96年、将棋界初の7冠全制覇を達成。12年、通算タイトル81期と歴代単独トップに。17年の竜王戦で渡辺明竜王に挑戦して奪取し、通算7期獲得の規定により「永世竜王」の称号を獲得。通算獲得回数などの規定がある7つのタイトル全部でその資格を得る、「永世7冠」を達成。18年2月、囲碁の井山裕太と、将棋界初の国民栄誉賞も受賞。同年12月に竜王を失い、27年ぶりの無冠に。19年6月、通算勝利数1434の史上最多勝を達成。通算1465勝614敗(未放映のテレビ棋戦を除く)。獲得タイトルは計99期(竜王7、名人9、王位18、王座24、棋王13、王将12、棋聖16)。家族は元女優の(畠田)理恵夫人と2女。