歴史的な一戦の裏側に迫る「G1ヒストリア」。この秋の第2弾では、03年秋華賞を勝ったスティルインラブを取り上げる。86年メジロラモーヌ以来17年ぶり、史上2頭目の牝馬3冠馬。騎乗した幸英明騎手(47)は同馬で初めてG1のタイトルを手にするとともに、史上最年少の3冠ジョッキーとなった。その鞍上が当時を振り返る。【取材・構成=明神理浩、藤本真育】

秋華賞を勝ったスティルインラブは17年ぶりの牝馬3冠。幸騎手は史上最年少の3冠ジョッキーとなった
秋華賞を勝ったスティルインラブは17年ぶりの牝馬3冠。幸騎手は史上最年少の3冠ジョッキーとなった

スティルインラブと幸騎手のゴールデンコンビは03年の桜花賞を勝ち、G1初制覇を達成。続くオークスも勝って、牝馬3冠にリーチをかけた。ただ、消長の激しい牝馬。86年にメジロラモーヌが初の牝馬3冠馬となって以降、1頭も誕生していなかった。

スティルインラブにも微妙な変化が表れる。「春はとにかく走るのが好きな馬だったんですけど、秋になって、調教から耳を絞るようになってしまいました」。前哨戦のローズSは5着。「これは少しまずいなという感じになりましたね」。本番・秋華賞の枠順は京都の内回りでは決して有利とは言えない17番枠。にわかに暗雲が漂った。

それでもスティルインラブは幸騎手を三たび、男にした。道中は中団の外めを追走。勝負どころでポジションを押し上げると、最後の力を振り絞って伸びた。直後にいた最大のライバルで単勝1番人気、武豊騎手騎乗のアドマイヤグルーヴのマークも振り切った。17年ぶり、史上2頭目の3冠牝馬が誕生した。

「とにかく力を出してほしいという思いでした。結果、道中は手応えがありました。うまく乗ったわけではありませんが、外々を回って強い競馬をしてくれました」

03年、秋華賞を制して3冠達成のスティルインラブと幸騎手
03年、秋華賞を制して3冠達成のスティルインラブと幸騎手

改めて、スティルインラブは幸騎手にとってどんな存在だったのか。「乗りやすい馬で、コントロールがしやすく、本当に弱点が1つもない優等生でした」。残念ながら、秋華賞以降、勝ち星を挙げることはできなかったが、その走りは鞍上に大きな影響を与える。幸騎手は史上最年少の3冠ジョッキーとなった後も大活躍。JRA・G1は以降で5勝。12年にはJRA史上1位となる年間1081回の騎乗も達成した。そして今も、トップジョッキーとして関係者、ファンの厚い信頼を受けている。

「この馬でG1を取れなかったら、もしかしたらG1を取れずに、今、騎手をやっていなかったかもしれません。大きな分岐点でした。僕の騎手人生を支えてくれた馬です。スティルインラブには感謝しかないです」

スティルインラブは07年に腸の病気により、生をうけて7年でこの世を去ってしまう。そのわずかな時間で多くのファンに感動を与え、1人の騎手をトップステージに引き上げた功績は称賛、いやそんな言葉すらもあてはまらないものをこの世に残してくれた。

スティルインラブ-。馬名の由来は「今でも愛してる」。

 
 

◆スティルインラブ 2000年5月2日、下河辺牧場(北海道門別町)生産。父サンデーサイレンス、母ブラダマンテ(母の父ロベルト)。牝、栗毛。馬主は(有)ノースヒルズマネジメント。栗東・松元省厩舎から02年11月にデビュー。翌03年に桜花賞、オークス、秋華賞を勝利。秋華賞を勝った3冠牝馬は初めて(86年メジロラモーヌ当時はエリザベス女王杯)。05年府中牝馬S17着を最後に引退。通算成績16戦5勝、うち重賞はG1の3勝。総収得賞金4億3777万8000円。07年8月、産駒を1頭残し、小腸の腸重積で死亡。