今春で引退する調教師が語る連載「明日への伝言」の第3回は、栗東・藤沢則雄調教師(70)が登場する。
生産牧場の生まれで、幼少期から馬は身近な存在だった。ナリタセンチュリーやシルクフォーチュン、クリノガウディーなどG1でも活躍した個性派を育て、JRA通算は、先週終了時点で302勝。育て上げた各馬の思い出や、馬への感謝を語った。【取材・構成=奥田隼人】
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近くに定年を控え、何とかあと3勝(現在JRA通算302勝)したいなと。大好きな長嶋茂雄さんの通算打率が、3割5厘なんです。北海道で生まれた私は生産牧場の出身で、今はもうやめてしまったけど家が藤沢牧場をやっていました。厩舎では生まれてないけど(笑い)、馬は小さい頃から身近な存在。当時は、こちら側からすれば調教師さんといったら雲の上のような存在でした。
北海道を出て東京で大学生活を過ごし、それからトレセンに入りました。調教師を志したのはこの時から。試験は2次7回目でようやく。あの頃は受験の過渡期で、1次から100人以上が受けていました。所属していた島崎宏先生は寡黙な方でしたが、ずっとその背中を見て育ちました。ここまで大事にし続けてきたことといったら、開業の時にも言った覚えがある「厩舎の輪」です。
思い出の馬を挙げるなら、やっぱりナリタセンチュリーです。最初の重賞をもたらしてくれて、セレクトセールで買ってもらった馬でもあったので余計にうれしかった。センチュリーは阪神より京都が得意で、2着だった06年の宝塚記念は阪神の工事で京都開催。当初は勝ったディープインパクトも出てこないと言っていて良しと思っていたけど、結局は出てこられて(笑い)。最強馬でしたからね。障害でも05年中山グランドジャンプでチアズシャイニングが2着。勝ったオーストラリアのカラジは430キロくらいの小さい馬で大丈夫だと思ったけど、あれも強かった。
20年高松宮記念のクリノガウディー(1位入線後に4着降着)は、ジャッジだから仕方ないです。少し斜行癖があって、他の馬に迷惑かけてしまった。本音を言うなら、18年朝日杯FS(2着)の方が惜しかったかなと。3、4角手前でミルコに入られて(笑い)、この前も(藤岡)佑介と「あれがなかったらいい勝負だったな」と笑ってね。シルクフォーチュン(12年フェブラリーS2着)は(藤岡)康太がうまく乗ってくれて。フォーチュンはいつも位置が後ろで、そのたびにお客さんがドッと沸いたね。
みんな、記録よりも記憶に残る馬でした。調教師の誰もが目指すG1は勝てなかったけど、悔いはないです。本当に、お馬ちゃんのおかげで幸せな生活を送らせていただきました。優勝劣敗の世界でこれからの調教師の子の方が大変だと思うけど、競馬会と調教師会と組合の三位一体で競馬を盛り上げてくれたら一番いいと思います。引退後はゆっくりしながら、何かしらの形で競馬に携わりながら売り上げにも貢献したいと思います。
◆藤沢則雄(ふじさわ・のりお)1954年(昭29)8月19日、北海道生まれ。栗東・島崎宏厩舎で厩務員から調教助手を経て、98年に調教師免許を取得し99年に開業。初勝利は99年4月4日中京1Rシーパッション。JRA重賞初勝利は04年京都大賞典ナリタセンチュリー。先週終了時でJRA通算302勝、うち重賞8勝。
◆ナリタセンチュリー 1999年3月20日生まれ。生産者はノーザンファーム。父トニービン、母プリンセスリーベ(母の父ノーザンテースト)。02年1月デビュー。重賞は04年京都大賞典、05年京都記念の2勝。通算23戦8勝。付加賞を含む総獲得賞金は3億2387万円。
■3・2ラスト開催
現在の日本中央競馬会競馬施行規程第50条には「調教師の免許有効期間の満了日が木曜、金曜、土曜の時は満了日後の最初の火曜日まで延長する」とある。今年は2月28日が金曜のため、昨年に続いて、2月末で定年引退となる音無師ら7調教師の免許が3月4日(火)まで延長される。そのため3月1、2日の土日が最後の開催となる。これにより新規開業調教師の開業日は同5日(水)となる。

