河内洋師(70)が定年引退を迎える。もう10年ほど前のことだ。当時、栗東担当だった自分は多いときは週2回、どんなに間隔が空いても2週間に1回は酒の場に呼んでもらっていた。「夜、何してる?」。毎週水曜、決まって午後4時ごろに電話が鳴る。鳴らない日はさみしさを覚えるほどだった。
酒は飲むけど、小食。河内師は騎手時代からそうだったという。減量に苦心した話は本当によく聞いた。「カラカラの状態だと少しの水分でも体が吸収する。俺はオロナミンC1本でも多いくらい。ヤクルトのふたに小さく穴を開けて少しずつ吸っていたよ」。
たった赤子の拳大の飲み物を片手にサウナにこもる。灼熱(しゃくねつ)の密室で騎乗馬の策を練る週末。アグネスレディーから始まる一族(アグネスフローラ、アグネスフライト、アグネスタキオンなど)、メジロラモーヌ、サッカーボーイ、レガシーワールド…、多くの名馬と積み上げた現役時代の2111勝はまさしく汗の結晶だった。
調教師転身後も、食は細かった。決まって飲むのはそば焼酎の水割り。瓶ビール1本をジョッキに入れて流し込み、その後は水割りに移行する。「昔からあんまり食わへんからな」。大体、つまみのメニューは同じ。でも、なじみの店で聞かせてもらう思い出話、競馬への思いは多岐にわたった。そこにグチがないのが河内師の飲み方。人に好かれる騎手になれ-。師匠である武田作十郎師の教えが体に染みついてるのだと感じていた。毎回、閉店間際まで飲むのが楽しかった。
正式な厩舎解散日は4日。引退後もウォーターリヒト(東京新聞杯勝ち馬)、ウォーターガーベラ(チューリップ賞2着)といった元管理馬の応援のために競馬場へ足を運ぶという。中学卒業後、武田作十郎厩舎の騎手候補生として中央競馬の世界に入って、55年が過ぎた。一線を退き、今週からはどんな視点で競馬と向き合うのだろう。いつかまた、飲みながら聞いてみたいと思う。本当にお疲れさまでした。【松田直樹】

