競泳の女子200メートル平泳ぎで日本記録保持者の金藤理絵(27=Jaked)が2分20秒30で、日本女子で史上5人目の金メダルを獲得した。

 4年前の悪夢を乗り越えた。金藤を指導して10年目の加藤健志コーチ(50)は前回ロンドン大会後、指導者をやめようと考えた。五輪選考会で落選。「恋愛も犠牲にさせ、食事も制限させ、“俺の言うことを聞け”とやってきた。もう俺はいない方がいい」。ショックから食事はのどを通らず、83キロあった体重は69キロまで激減。しばらくうつ状態が続いた。

 「やめたかったがやめられなかった」。9年前に見つけた金藤理絵という原石の輝きを信じたからだ。その後も毎年引退を示唆する金藤に「おまえは絶対に世界一になれる」と必死で引き留めた。昨年世界選手権後、金藤が覚悟を決めると、加藤コーチは高校時代からの泳ぎを再分析し、独特の伸びのある泳ぎからピッチ泳法に改造。ヘルニアを患った時から遠慮したスパルタ指導も再開した。

 五輪直前、金藤の心が揺れたことがある。銀メダルのエフィモワ(ロシア)は2度ドーピング違反を犯したが、直前に出場が許された。同じアスリートとして複雑な思いもあったが「身体に影響のあるドーピングを故意にやっているとしたら、命を懸けているということ。おまえは命懸けの努力をしてきている。命懸けのレベルで負けるな」と諭した。

 泳ぎのセンスこそあったが、もともと優しい性格で、一般人より闘争本能もない金藤。昨年の気づきの前に強引に水泳をやらせていなければ、今回の栄光はない。「理絵みたいなやつが金メダルを取れる。水泳に関係ない人も勇気を得てほしい。あきらめないでほしい」。金藤同様、決して器用ではない熱血漢が金メダルコーチになった。