先日、テレビ朝日で放送している人気番組「激レアさんを連れてきた。」に出演させてもらいました。
お笑い芸人オードリーの若林正恭さん、女優の羽田美智子さん、お笑い第7世代の霜降り明星せいやさん、テレビ朝日の弘中綾香アナウンサー、第一線で戦い抜いている方々は皆さんプロフェッショナルだった。
若林さんが番組の空気と方向性を一瞬で作り、そこにせいやさんが自分のキャラを保ちながらその空気と融合していく。
その出来上がっていく空気感を、羽田さんのキャラがどんどん壊していく。
ただ弘中アナウンサーが番組の流れを作り続けていくので、番組そのものは壊れていかない。
プロフェッショナルたちが奏でる演奏会を一番近くで見ている気分だった。
ふと思い返せば、それはサッカーチームのパスワークにも似ている。
それぞれに適材適所があり、そのポジションで自分を発揮する人とそのチームの流れをキープする人、空気を作る人。
意外性で想像を超えてくる人。
番組収録スタートから終了までの2時間、一度もカメラを止めることなく、その場その場で発揮されるキャラと言葉の応酬は、エンターテインメントでありながら、一発真剣勝負のサッカーと似ていた。
2017年の8月。僕はすべての仕事を辞めJリーガーを目指した。
「人生の後悔を取り返しにいく」
僕はもう1度、自分の人生のリーダーになることを決めた。
どんな有能な詐欺師も自分だけはだませない。
うそをついて、虚勢を張って生きていた自分自身を変えたいと思った。
人は簡単には変われない。
自分についたウソから15年の月日がたっていたくらいだから。
しかし、何事にも始めるのに遅いことなどない。
僕がJリーガーを目指すのは30歳でもなければ35歳でもなかった。
40歳という僕なりの人生の節目を転機と位置づけたのだ。
激レアさんで出会ったタレントさんは皆、自分の人生のリーダーに思えた。
それは、番組の進行とは別のところで、その人それぞれが織りなすキャラが、作られたものではなく、自分の中で構築され、洗練されたようにみえたからだ。
自分の目指すべき目的に自分の人生を合わせているように思えた。
収録終わりに羽田さんがわざわざ楽屋に訪ねてきてくれた。
それは、ただのごあいさつではなく、僕に伝えたいことがあったのだ。
自分の人生に正直に進んでいる人の努力は報われるだけでなく、他人にもエネルギーを与える。
そして、その努力に慢心せず不安なくらいがちょうどいい。
羽田さんは僕にそういってくれたのだ。
人生のリーダーになれば孤独にもなる。
それは不安の裏っ返しだ。
それをわかっている人は強くたくましくなり、人の痛みもわかるからすてきなんだと教えられたようだった。
僕らはときに人生の優先順位を間違えてしまうことがある。
その間違えの多くの原因はお金かもしれない。
いつしかお金をくれる人が偉い人だと思い込み、その人たちに迎合するように顔色をうかがいながら生きようとしている。
実際に僕もそうだった。
しかし、今、もう1度自分の人生のリーダーになった僕が思うことは、お金はぶら下げられたニンジンではなく、自分でつけた足跡だということ。
これやったらいくらを目指すのではなく、アスファルトにでも足跡が残るような生き方をし、誰もが踏み入れなかった地に足跡をつけるくらいの覚悟が必要なんだ。
人生に練習も本番もない。
あるのは、今この瞬間にベストを尽くすということだけ。
皆さんがつけている足跡を頼りに頑張っている人たちがきっといるはずだ。
それは、家族かも知れないし、友だちや恋人かもしれない。
どこかに必ずその足跡に助けられている人がいる。
僕が「激レアさんを連れてきた。」に出演したことで、僕の足跡は多くの人に可視化された。
どんな荒れ地でもそこに足跡があれば人は安心する。
今年で最後のシーズンにはなるが、Jリーガーはピッチ内外の両方において存在感を出すことが求められる。
ピッチ内ではJリーグのルールの中で、ピッチ外では自分のルールの中で、お金や他人に惑わされることなく、自分に素直に正直に確実な一歩を踏み出したいと思う。
自分の人生のリーダーになれ。
人生で一番輝いているのは旅の途中だ。
終わりなき旅を始めよう。
(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「0円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)
◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。18年、J2水戸と40歳でプロ契約。19年にYS横浜へ移籍。開幕戦の鳥取戦で途中出場し、ジーコの持っていたJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を上回る41歳1カ月9日でデビュー。