これまで株価という視点からマンチェスター・ユナイテッドを見てきました。やはり、株式そのものはファイナンス的にはどうしてもリスクがある世界です。ハイリターンを期待することができる部分もありがなら、価値が落ちてしまうリスクもあり、その要因の1つに天災・人災というものが入ってきます。しかしスポーツの世界は中々感じることが薄い部分ですが、レアル・マドリードのMBAコースではその天災・人災によるビジネスリスクという授業項目があります。人災リスクでは情報漏洩が鍵になり、特にジョゼ・モウリーニョが監督就任してからはその情報漏洩に世界で一番といってもいいほど気を使ってきた部分でもあります。日本では地震や台風という自然現象が要素に入ってくる部分でもありますが、さすがに今回のウイルス関連の事象がビジネスリスクとなり、世界的に全てがストップしてしまうということまでは予想できませんでした。

今回は新型コロナウイルスによって世界的に株価が一時的に下落しましたが、ひょっとしたらファイナンス面で大きな打撃をくらっているのが、イタリアのユベントスかもしれません。なぜここにきてクリスティアーノ・ロナウドの売却の話が出てきているのかを考えると、想像を超えるマイナス事象があることを感じます。

ユベントスの株価を追ってみると、日韓Wカップが開催された2002年には1株当たり1.2ユーロ前後の株価をつけており、現在のレートで100株あたり1万4500円前後になります。そこから徐々に値下がり、ここ20年で一番低かったのが2012年。0.12ユーロまで下がった状況でしたが、まさにイタリアサッカーの人気下落と連動しているといっても良いと思います。1990年代の世界最強リーグセリエAと言われた時代が終わりを迎え、特にユベントスはカルチョ・スキャンダルがありましたが、全体的に人気がプレミアリーグにシフトしていく時期と重なります。その株価が低迷を脱却したのが2017年の5月。それまでは0.25ユーロほどであったのにもかかわらず年明けからわずか5ヶ月間で0.84ユーロに迫る急上昇を記録。6シーズン連続・通算33回目のセリエA優勝を果たし、CLでも決勝に進出。「ストップ・ザ・レアル・マドリード」の勢いそのままにCL決勝に乗り込んだタイミングでもありました。結果は1−4の惨敗で、直後に株価は0.4ユーロ付近まで下落(約50%ダウン)も、新シーズンの取り組みが評価されたのか、新シーズンへの切り替えと期待値からかすぐに回復。そして翌年2018年の夏前にビッグニュースが飛び込んできたことで株価は急上昇しました。クリスティアーノ・ロナウドのユベントス移籍です。一時的に1.3ユーロを上回る値を記録。5月から9月のわずか4ヶ月間という短い時間の中で価格はほぼ2倍近くに跳ね上がっています。

これぞまさにクリスティアーノ・ロナウド1人の影響力の大きさ、期待値の大きさを示した形になったわけなのですが、昨年は悲願のCL制覇を目指して好発進も、アヤックスの快進撃の前に撃沈。負けた瞬間1.4ユーロほどあった株価は1.15ユーロ近くまで約20%も落ちたほど(ちなみにアヤックスはこの勝利に対して17ユーロほどであった価格が18.6ユーロ近くまで10%ほど上昇)。資産計算ではユベントスは4億ユーロ(約500億円弱)ほど失ったと現地では報道されていたぐらい大きな損失でした。

今年はまさにフットボールは人気商売という部分を露骨に露呈している業界状況ではありますが、今回のコロナの騒動でユベントス株は1.25ユーロから0.75ユーロまで下落。無観客試合ということや、悲願のCL制覇が夢と消える可能性が高い(今のチームにいまいち期待が持てない)といったところ、そして新しいチームの再構築の必要性を感じているのか、株価の上昇兆しは見えず仕舞い。挙げ句の果てには35歳を迎えたスーパーエースを売却した方が良いのではないかという噂も出始めている状況で、非常に厳しいシーズンを迎えております。

ある意味、新しい世界の再構築が求められているような状況になっていると考えるのであれば、選手売却含めてこの1、2ヶ月間の選手1人の獲得・売却で大きく変わってきます。株価の動きと移籍情報のニュースとを比較しながら見てみることで、チームの動きの真意とファンの期待値という部分を照らし合わせてみるのもおもしろいかもしれません。【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)