ニューヨーク入りし、いきなりすごい試合を見た。ブラジル-ノルウェー戦。ただ、試合に集中できない。なぜか? 注目の一戦、特にブラジルはメディアの数も多い。「記者席」とは名ばかりで、机のない一般席のところから試合を見たからだ。選ばれし者? たちは1つ下の階の室内にあるガラス越しの記者席があてがわれていた。
カナリア色のサポーターが多めにいた場所だった。売店からビールやホットドッグなどを手にした人が次々と前を通っていく。通路が狭い分、そのたびに立ったり座ったり。落ち着いて作業できる環境ではなかった。
ただ悪いことばかりではなかった。W杯のお祭り気分を味わうには、外の空気を満喫できるのが一番。そして何より、あの「バイキング・ロー」を体感できたことは大きかった。
ノルウェーと言えば、海賊のバイキングが有名だ。その船こぎ応援のパフォーマンスで一体感を出し、今大会は話題となっている。太鼓の音に合わせて体育座りしたサポーターたちが「ローッ!(こげ!)」と声を合わせ、オールを引く動作を行うものだ。
94年のW杯米国大会でオーランドのスタジアムでオランダ対アイルランドの試合を見た。そこは古いスタジアムということもあったのだろうが、オレンジのサポーター軍団が手拍子とともに足踏みをする。その足踏みのたびにスタンド席は揺れ、まさに地震にあったような怖い経験をした。
それだけに今回はどれだけ揺れるのか、とも思っていたが、当然バックスタンドで行われているものだからメインスタンドまで揺れることはない。ちょっと一緒に揺れてみたかったというのもあったが。
それでも迫力ある声がスタジアム中に響き、一糸乱れぬ動作は神々しいものだった。「バイキング」だけに伝統的な応援スタイルのイメージがあったが、これが始まったのは昨年12月から。ある1人のサポーターのアイデアから始まったものだ。28年ぶりのW杯でノルウェーが一体となって戦う。そのために必要なものだった。
サポーターの力は大きい。ピッチの選手を鼓舞することで、自らの限界点を遠くまで引き伸ばす効果がある。また、4年に一度のW杯は、自国への集団帰属意識を生む機会でもある。赤く染まったスタンドだけでなく、ピッチの選手が向き合い、ともに「ロー!」と声を合わせる姿はとても美しかった。
W杯とは、世界の文化人類学の博覧会。スタンドだからこそのお祭り気分を味わえた。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)



