日本代表MF久保建英(19)が所属するビリャレアルは13日、スペインリーグ第13節のアウェイ戦を1-1でベティスと引き分けたが、この試合でイボラ、エストゥピニャン、コクランの3選手が負傷するという緊急事態が発生した。

ビリャレアルは今季、他クラブ同様に新型コロナウイルスの影響を大きく受けているが、シーズン開幕前からけがによる欠場者が続出していることが、クラブを悩ませる問題となっている。

昨季のリーグ戦は、新型コロナウイルスの感染拡大により3月半ばから3カ月間中断され6月半ばに再開、7月19日に終了したが、欧州大会や1部リーグ昇格プレーオフに出場したクラブはその後も継続して、過密日程での戦いを余儀なくされた。

選手たちは束(つか)の間のオフを落ち着いて休むことができず、慌ただしく例年と比べて短いプレシーズンを過ごし、調整不足のまま誰も経験したことがない“特異なシーズン”をスタートした。タイトなスケジュールでの体調管理にプラスして、新型コロナウイルスの感染を避けることも求められ、肉体的にも精神的にもハードな状態が続く中で戦い続けている。そのしわ寄せは当然、選手たちのオーバーワークへとつながっている。

ビリャレアルはプレシーズン中、左サイドバックのレギュラーと目されていたアルベルト・モレノが、テストマッチのテネリフェ戦で復帰までに最低6カ月かかると推測される左膝前十字靭帯(じんたい)断裂の重傷で失った。またバッカは昨季からの怪我が続き、マリオ・ガスパールとトリゲロスは新型コロナウイルス感染により出遅れていた。

今季ここまでに負傷欠場した選手を振り返ってみると、GKは1人もいない。一方、DFではアルベルト・モレノの他、ルベン・ペーニャ、フネス・モリ、フォイス、ジャウメ・コスタ、シャクラ、ペドラサ、エストゥピニャンの7選手。この中でエストゥピニャンはベティス戦で今季2度目のけがを負っている。

MFではパレホ、モイ・ゴメス、イボラ、コクランのレギュラークラスが次々と負傷している。ベティス戦で左膝前十字靭帯断裂の重傷を負ったイボラについて、復帰までに最低6カ月かかると伝えられており、今季絶望の可能性が非常に高く、ビリャレアルにとっては相当な痛手となるため、冬の移籍市場で補強を行うという報道が出ている。イボラ同様、ベティス戦で負傷したコクランは今季3度目のけがとなった。

FWではバッカ、ジェラール・モレノ、パコ・アルカセルが負傷欠場している。この中で今季の公式戦9得点でチーム得点王のエース、パコ・アルカセルは4試合の欠場後、リーグ第12節エルチェ戦で戦列復帰するも、今度は左足大腿二頭筋肉離れのけがを負い、全治4~6週間と見積もられ、年内復帰は非常に厳しい状況になっている。

合計15選手が負傷しているのに加え、シャクラがモロッコ代表に参加した際、新型コロナウイルスに感染し、モロッコでの隔離措置が約2週間あり、戦線離脱していた。

一方、これまでにけがや新型コロナウイルス感染などで欠場していないのは、GKのアセンホ、ルジ、ヨルゲンセン、DFのアルビオル、パウ・トーレス、MFの久保、チュクウェゼ、ジェレミ・ピノ、バエナ、ラバ、FWのフェル・ニーニョの合計11選手。

ビリャレアルは今季ここまで、長期離脱のアルベルト・モレノを除いても、シーズン開幕からの約3カ月間、けが人ゼロで臨んだ試合は1度もない。負傷者が続出している主な原因としては他のクラブ同様、新型コロナウイルスの影響を受けての過密日程や調整不足が挙げられているが、エメリ監督が固定メンバーで戦い続けていることも大きな理由になるだろう。

エメリ監督はリーグ戦と欧州リーグに向け、基本的に2チーム体制で臨んできた。欧州リーグでは毎回、大幅なローテーションを実施しほとんどの選手を入れ替えている。そのような状況の中、レギュラー組主体のリーグ戦の出場時間の上位11選手を見てみると、トップは全13試合、1170分間にフル出場しているアセンホとパウ・トーレス。これにアルビオル(1152分)、マリオ・ガスパール(1087分)、パレホ(972分)、ジェラール・モレノ(966分)、イボラ(928分)、モイ・ゴメス(887分)、トリゲロス(814分)、パコ・アルカセル(720分)、ペドラサ(669分)が続いており、特定の選手に出場時間が偏っている。

そしてチュクウェゼ(581分)、エストゥピニャン(566分)、コクラン(374分)が続き、久保はチーム15番目の291分間。リーグ戦全13試合に出場しているが、スタメン入りはわずか2回で、1試合平均のプレー時間は22・38分となっている。一方、欧州リーグでは5試合全てに先発出場している。

また、今季の公式戦18試合すべてに出場しているのは久保とイボラのみ。しかしベティス戦前までのリーグ戦9試合に連続でフル出場し、エメリ監督にとって中盤の代えの利かない選手となっていたイボラがベティス戦でついに重傷を負うことになった…。

エメリ監督はベティス戦後の記者会見、負傷者が続出したことについて、「全てのチームがけが人を抱えているため、悲観してはいられない。我々はそれを最少限に抑える必要があるし、今日のフェル・ニーニョのように、他の選手にとってはチャンスとなる。負傷した選手たちが重傷でないことを願う」と語っており、出場機会の少なかった選手たちに今後、新たな扉が開かれることになりそうだ。

現在、アルベルト・モレノ、バッカ、モイ・ゴメス、パコ・アルカセル、イボラ、コクラン、エストゥピニャンの7選手が負傷者リスト入りする中、エメリには久保、チュクウェゼ、ジェレミ・ピノ、バエナ、フェル・ニーニョなどの若手選手にさらなる先発の機会を与える選択肢や、これまでの戦いで見せたように、左サイドバックで起用されているペドラサやジャウメ・コスタを攻撃的なポジションに配置するオプションもあるだろう。

主力選手が次々と負傷しながらも、エメリ監督の手腕によりリーグ戦で4位につけ、欧州リーグでは決勝トーナメント進出を決めて好成績を残しているビリャレアルはこの後、16日に国王杯初戦で3部リーグのレイオラとアウェーで対戦する。そしてリーグ戦3連戦に臨み、19日にアウェーでオサスナ、22日にホームでビルバオ、29日にアウェーでセビリアと戦い2020年を締めくくる。

しかしチームは休む暇なく、1月2日にレバンテをホームに迎えて2021年をスタート。誰も体験したことのない“特異なシーズン”の中、肉体と精神を研ぎ澄ませ戦い続ける全選手たちに心から尊敬の念を抱くとともに、これ以上のけが人が出ないことを祈るしかない。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

ビリャレアル久保建英(ロイター)
ビリャレアル久保建英(ロイター)