陸上男子100メートルのサニブラウン・ハキーム(20=フロリダ大)が決勝で9秒97(追い風0・8メートル)の日本新記録を樹立した。

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追う展開の中で、9秒台を出した価値はあり、信じ難い。前に選手が見えると「追わないといけない」という心理が働き、無理にスピードを出そうと本来の力が出せなくなる。もしも60メートルを先頭で抜け、主導権を握り、持ち味を出せるレースだったなら、もっと速い記録だったはず。9秒94ぐらいは出ていただろう。

以前の走りと比較すると、脚の回転スピードが乱れなくなった。一般的に疲れて回転速度が落ちると、ストライドが制御できず、適正な大きさよりも伸びてしまう。そうなるとストライドは伸びても、結果的にスピードが落ちる。サニブラウンは重要な大腿(だいたい)部、臀部(でんぶ)、胸板の筋肉など必要な筋力が鍛えられ、脚の回転速度を維持できるようになり、適切なストライドで走り切れるようになってきた。以前はレースごとにバラバラだったが、安定した形になりつつある。ストライドが乱れると脚への負担も多く、けがにつながりやすくなるが、改善されている。フォームが良くなると、けがのリスクも減る。

日本のライバルの選手たちはどう捉えていくか。日本選手権でもサニブラウンは9秒台を並べられるはずだ。他の選手が追随すれば、多くのすごい記録が出るかもしれない。反対にかなわないと思ってしまうと、サニブラウンの独壇場で、主導権を握り、理想的にレースを運べることで大記録が出るかもしれない。(男子100メートル元日本記録保持者)