米国・インディアナ州の中央部に位置するインディアナポリス。現役時代に何度も合宿で訪れた私の特別な場所だ。いつも練習していたのは、インディアナ大学内にある「ナタトリウム」。飛び込みプールの壁面には、ここで練習し五輪へ出場した選手の名前がズラリと手書きで書かれている。米国では人気スポーツの1つである飛び込み競技。そのため、大きな大学には必ずと言っていいほど飛び込みプールがある。

飛び込みのアメリカンカップの女子高飛び込みの表彰式 日本の山崎は惜しくも4位
飛び込みのアメリカンカップの女子高飛び込みの表彰式 日本の山崎は惜しくも4位

ナタトリウムも数々の選手を排出した歴史あるプールの1つなのだ。私にとって、たくさんの思い出の詰まったこの場所で、4月26日から28日にかけてアメリカンカップ2024が開催された。

日本からは山崎佳蓮(高知工科大学)1人が参戦した。現地での練習が始まると、担当コーチとして帯同した徳本コーチから1枚の写真が送られてきた。そこには懐かしい背景とともに私の恩師でもあるジョンコーチが写っていた。初めて1人で渡米したのは高校を卒業してすぐのこと。オリンピックを目指し、アメリカの友人たちとともに練習した日々が脳裏に浮かび、とても懐かしい気持ちになった。

左から山崎の徳本コーチ、恩師のジョン・コーチ、山崎
左から山崎の徳本コーチ、恩師のジョン・コーチ、山崎

今大会には13カ国が参加。山崎が出場した女子10m個人は2日目に行われた。

彼女の持ち味は長身をいかした力強い演技と難易度の高さである。日本の女子では誰も飛んでいない307c(前逆宙返り3回半・抱え型)を武器に、高難度の技で勝負する。

予選は11位とやや低調な滑り出しだった山崎。しかし、決勝では難易度の高さをいかし、徐々に順位を上げていった。最終種目となる5本目に飛んだ207c(後ろ宙返り3回半・抱え型)では、見事なノースプラッシュ。一気に順位を上げた。結果はメダルに一歩手が届かず4位。しかし、3位との差はわずか3.85点だった。世界に通用する難易度をそろえていながら、メダル争いに加われる戦いが出来たことは大きな収穫となっただろう。

そして、今大会で彼女を最も成長させたのは、「悔しい」という気持ちである。私は彼女をジュニアの頃から知っているが、強い選手になるために唯一そこが足りない部分だった。アスリートは「負け」から学ぶ事がとても多い。その元となるのは「悔しさ」である。今大会の結果に悔しさを感じられた事は、より一層彼女を成長させたに違いない。フィジカルも種目の難易度も世界のトップといえる山崎。そこに強い勝負心が加われば、日本代表として世界でも活躍できる選手になるだろう。今シーズン、注目したい選手の1人である。

今大会は、直前までワールドカップが行われていたこともあり、出場選手のほとんどが2番手の選手だった。しかし、海外へ行き、国際大会特有の雰囲気を感じながら試合をする事は、強くなるために大切なことである。

アメリカンカップの後には、カナダカップ、そして今週にはフランスオープンが開催される。フランスオープンの会場となっているのはパリ五輪の会場だ。そのため、日本からはパリ五輪出場選手が派遣されている。パリ本番に向けて、良いイメージをつかむことを願っている。

(中川真依=北京、ロンドン五輪代表)