17年世界選手権2位でショートプログラム(SP)首位の宇野昌磨(19=トヨタ自動車)がフリーも197・48点で1位となり、合計301・10点で優勝した。史上最長となる5大会連続300点超えと安定感を示し、2位ブラウン(米国)に39・96点の大差をつけた。地元名古屋で12月に行われるGPファイナルの3季連続出場に大前進し、18年平昌五輪の金メダル有力候補として順調に滑り出した。

 宇野が自分にムチを入れた。「体が動きすぎてどうしよう」と驚いた23時間前のSPが、遠い昔の思い出に感じる。直前の6分間練習で「昨日の半分ぐらい。全然滑んない」と状態の悪さを受け止めた。スケート王国のファンが上げるうなり声で迎えられたリンク。「ここで死ぬつもりで頑張って、耐えよう」と159センチの体に言い聞かせた。

 頭には「明日(の演技)はないから、やれるでしょ」と信号を送った。出だしの4回転ループは2・14点の加点を導く好ジャンプ。中盤はフリップやトーループの4回転などで乱れたが、今大会のテーマにした演技後半の3つの連続ジャンプを全て決めた。8つのジャンプ要素を終えると、重たい脚に「動け!」と念じ、疲労困憊(こんぱい)の自分を「ジャンプがないなら、走れよ!」と叱咤(しった)した。右拳を突き上げる決めポーズにたどり着くと「疲れている状態でやりたいことをやれた。割と満足しています」と笑った。

 「ジョキ、ジョキ、ジョキ…」

 その無言の意思表示を伝え聞いたデザイナーは、嫌がるどころか感心したという。9月16日、今季初戦のロンバルディア杯フリー当日、宇野は「(首が)きついです」と青の衣装のえり2カ所にハサミを入れた。普段からリンク以外に「コンビニぐらいしか行かない」と明かす男が衣装に求めるのは「動きやすさ」のみ。色も、デザインも、毎年のプログラム曲まで樋口コーチや周囲の関係者に一任する。それでも「動き」には驚くほど敏感であった。

 今大会に向けては20日に現地入り。1週間以上かけて、時差ぼけ解消と横幅が4メートルも短いアイスホッケー用の本番リンク対策を進めた。過去に苦戦した異国での反省を生かし、定着した旅程。史上初の5大会連続300点超えを記録し、樋口コーチには「ショート(SP)でやりすぎ」と笑われた。絶好調一転、絶不調。それでも宇野はこだわりの準備で自身の今季GP初戦を勝った。

 「300点をコンスタントに出せるようになったのは、去年の自分からの成長かなと思います」

 くっきりと見えたGPファイナル。その先の五輪金メダルへ、心身のギアが1段階上がった。【松本航】

 ◆300点超え 国際スケート連盟(ISU)公認スコアでの300点超えは宇野と羽生、フェルナンデス(スペイン)チェン(米国)金博洋(中国)の5人。羽生は15年NHK杯で史上初の300点超えを果たし、続くGPファイナルで330・43点の世界最高得点。17年にも2度目の2大会連続300点超えを達成。フェルナンデスは16年に2大会連続で記録。宇野は史上最長の4大会連続となり、ISU非公認スコアのプランタン杯を含めると5大会連続。高いレベルでの安定感が際立つ。