【第26回】
親も世間から孤立しない
長期ひきこもり(1)
先月末、16歳のころから、20年間、ひきこもりを続けていた大阪市の36歳の男性が、家族の将来を悲観して両親を殺害し、自首するという悲惨な事件が起こった。
事件とひきこもりの関係の詳細は不明だが、一般的にこのような長期にわたるひきこもりをどのように考えたらいいのかについて、ひきこもりの若者への支援に詳しい国立・精神神経センター精神保健研究所(千葉県市川市)伊藤順一郎医師に聞いた。
「一般論ですが、長期にわたってひきこもっている場合にはかなり、その人の視野がせまくなっている場合が多いですね。自分の考え以外はなかなか受け入れることができないという感じです」と伊藤医師はその心情を説明する。
例えば自分が他人から醜いと思われていると思い込んだら、外との交流もないために、思い込みを訂正する事が難しい。家から出て電車に乗ってどこかにいく事を想像する場合にも、醜い自分が他人にどう見えるかを考え、結局、家から出る事ができなくなるという。
ひきこもりを長年続けていれば、両親が年老いたり、経済的に困窮するといった現実に直面するわけだが…。
「困っているという感覚はあるはずですが、リアルに感じるかどうかは個人差もありますね。ただ、自分のせいで迷惑をかけていると感じている人はかなり多いと思う。何とかしなきゃと思っても、怖くて動き出せないという気持ちのほうが勝ってしまっているんです」伊藤医師はひきこもりの人の背景には、常に社会に対する強い不安や恐怖があることを強調する。
いろいろな意味で、本人にとって困窮がリアルなものとして捉えられ始め、解決しなければと焦った時にはとても緊迫した状態になる場合が多い。
思春期から引きこもっていれば、働いた経験もなく、社会がどんなところであるかという、具体的なイメージが皆無で、外に出ようにも何をどうしたらいいかが本当にわからないのが現状だ。そのとまどいと恐怖は、普通に社会生活を送っている人々の想像を絶する状態であることを周囲は理解したほうがいい。
「できるだけ早く両親が家族会や自助グループや支援機関とつながり、支援を求めたりするのが良い。面倒見のいい市町村の保健師さんなんか親身になって聞いてくれます。ただ両親もその悩みの深さのために世間から孤立してしまう場合が多く、支えあう組織があるという情報が、届きにくいのが現状です」と伊藤医師は指摘する。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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