今大会2個目の銅メダルを獲得した宇野昌磨(トヨタ自動車)はなぜ、再び成長曲線を描けたのか-。

今季はフリーで4回転4種5本の高難度構成に挑戦。コーチ不在だった団体戦の「キス・アンド・クライ」にも座ったトレーナーの出水慎一氏(43)が、18年平昌五輪前から二人三脚で歩んで見えた成長を明かした。

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五輪代表を決める昨年12月の全日本選手権。宇野は大会直前に右足首を痛めた。年末年始をへて、五輪まで1カ月を切っても全快とはいかない。北京入り翌日の3日には「やはり完治はしていない」と明かしたが、気持ちは前向きだった。裏では出水氏と「あのメニューをやっていなかったら、もっとひどかったかも」とうなずきあっていた。

宇野にとって足首は「もろ刃の剣」だった。これまで硬い靴を好んできたが、今季は「いけるじゃん」と従来に比べて柔らかい靴を導入した。出水氏は「彼は足首が柔らかい。それを生かせるようになった」。つま先を氷に突いて跳び上がるトーループ、フリップ、ルッツはこれまで反発力を頼りにしていた。これで「元々持っている筋肉の質を使って跳べる。高さが出てきた」と利点が生まれた。

だが弱点もあった。可動域が広がる分、故障のリスクが高まった。始めたのは足の指を使った運動。例えば指4本を下げ、親指だけは20秒間、出水氏の手を押し上げ続ける。次はプッシュを20回…。昨年6月から週4回、その地味なメニューを欠かさず繰り返した。

「陸上のメニューを作ってくれませんか?」

10月のグランプリ(GP)シリーズ第1戦スケートアメリカ後、宇野から初めて提案があった。「昌磨の意識が変わった。驚いた」。フリー後半の体力不足を痛感したことが理由だった。転倒した際には立ち上がり、氷を押し、本来のスピードに上げる作業が必要になる。歩く、走る、横向きのステップ、止まる、走る、回転する。その30分間にも心身の成長がにじんだ。

各国メディアが集ったメダリスト会見。その場で宇野は「家族、トレーナー、連盟、コーチ。全ての人に支えられて今の自分がいる」と感謝を込めた。スマートフォン片手に取り組むほど地味な動きは、ここにつながっていた。【松本航】

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