ショートプログラム(SP)3位の宇野昌磨(24=トヨタ自動車)が、団体に続いて今大会2個目の銅メダルをつかんだ。

フリーは5位の187・10点にとどまったが、自己ベストの合計293・00点。18年平昌五輪銀メダルと合わせて、日本フィギュア界最多のメダル3個となった。どん底だった2季前の涙を経て、世界トップの戦いに返り咲いた。ネーサン・チェン(22=米国)は合計332・60点で金メダルに輝いた。

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腰に手を当て、宇野は演技の余韻に包まれながら舌を出した。首を少し横に傾け、あの日、涙を流した「キス・アンド・クライ」で得点を待った。隣には滑る楽しさを伝えてくれ、時に鋭い指摘で鼓舞してくれるステファン・ランビエル・コーチがいた。「今日の演技がどうであれ、この順位は4年間の成果なので、素直にうれしいです」。銅メダルの価値は重たかった。

わずか2年3カ月前、忘れられないグルノーブルの夜がある。19年11月1日、グランプリ(GP)シリーズ第3戦フランス杯のSPが行われていた。その約半年前、浅田真央らを育てた山田満知子コーチ(78)の「トップを目指すために外に出た方がいい」という助言を受け、周囲の勧めもあって幼少期から過ごしたチームを巣立った。メインコーチ不在のシーズン。ジャンプが不調で試合前に「演技をしたくない」と思った。本番は3本のうち2本で転倒。SPで23・43点差がついたチェンの演技を眺め、懸命にヒントを探した。

夕方、ホテルで体のケアを受けた。空気は重たく、無意識のうちに差し障りのない話題を探していた。担当した出水トレーナーは「何かを言った瞬間に、全てのものが崩れ落ちる気がした」。宇野は1人になると涙を流し、一夜が明けた。

翌日の演技後、SPと変わらず1人きりで「キス・アンド・クライ」に座った。フリーは中盤以降に3本の転倒。とにかく懸命に起き上がり、また跳んだ。すると氷に体を打ち付ける度に、拍手が聞こえてきた。「ショーマ! ショーマ!」。自己ベストに70点以上も及ばない合計215・84点の8位。4年連続表彰台のGPファイナル切符は視界から消えた。人目を気にせず涙があふれ出た。

「歓声が何もなかったら決して泣くことはなかったと思う。あのような演技をし、それでも、歓声をたくさん送っていただいた。うれしさと、言葉では表現できない涙が出てきました」

五輪銀メダル、4大陸王者、全日本選手権3連覇。肩書は結果を求める日々にいざなった。だが、ふがいない演技にも拍手をくれるファンがいた。背負っていたものを下ろし、またスケートを愛した。直後にランビエル・コーチと再出発し「もっとスケートを楽しみたい」と芯を大切にした。

この日、4年前に失敗した冒頭の4回転ループを決めた。転倒や細かいミスがありながら、最終盤のステップは最高のレベル4。158センチの体を全て使い「ボレロ」の壮大な曲想を表現した。開幕日の団体SPに始まり、残した3つの作品。銅メダル2つを得ても、わき出た思いがあった。

「唯一の心残りは(ボレロを振り付けた)ステファンに『良かったよ』と言ってもらえるような演技ができなかったことです。僕にとってはどの試合も特別。五輪が最終目標ではありません。何が最終目標か分からないけれど、今の目標は成長をし続けることです」

リベンジの舞台として、3月には世界選手権(モンペリエ)がやってくる。見えないゴールに向かい、歩む日々は続く。【松本航】