男子72キロ級で樋口健太郎(45=パワーハウス)がサプライズ優勝を果たした。初出場。キャリアは1カ月余り。しかも入院中。それなのに125、132、136キロと3回の試技にすべて成功し、當山龍(29)と同重量で並んだが、体重差で金メダルを獲得した。

 「恥ずかしいので短めでお願いします」。樋口は淡々とインタビューに応じた。9月に交通事故に遭った。オートバイを運転中、後方から車に衝突されたという。10月にかけて3度の手術を受け、右大腿(だいたい)部下を切断した。治療、リハビリの課程でパラ・パワーリフティングに出会い、日本連盟・吉田進理事長のメニューでトレーニングを始めたばかり。

 スポーツトレーナーとしてウエートトレーニングの指導歴が10年以上あった。自らもベンチプレス、スクワット、デッドリフトでバーベルに親しんだ時期があり、基本的な体力と経験もあった。しかし、リハビリのために入院中の病院から特別許可を得て、会場に駆けつけての快挙。「今はきれいなフォームを身につけたい。早く世界大会に出られるようになって、20年東京も視野に入れたい」。事故に遭ったことで、中学校の理科非常勤講師の職を離れざるを得なかった。「活躍することで、また教職に戻りたいですね」。樋口は静かに笑った。【小堀泰男】