パラアイスホッケーの日本代表にもレジェンドがいた! 61歳のGK福島忍(長野サンダーバーズ)だ。昨年10月の平昌パラリンピック最終予選では出場権獲得の原動力になった。20年に及ぶ代表歴を誇り、4大会目のパラリンピックになるが、過去3大会は控え。10年バンクーバー大会の銀に続くメダルを目指す日本のゴールを死守するために調整を続けている。五輪男子ジャンプの元祖レジェンド葛西紀明(45)はもちろん、16歳年上のGKも応援しよう。

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 「会う人がみんなさ、60(過ぎ)には見えないって言うもんだからさ、その気になってやってるんだよ、ガハハッ!」。福島は豪快に笑い飛ばした。確かに若い。短く刈りそろえた髪に少し白いものが交じるが、浅黒く日焼けした肌はツヤツヤ。平均年齢41・29歳で40代が主力を占める日本代表とはいえ、さすがに61歳では…。いや、まったく違和感はない。

 昨年10月、スウェーデンでの平昌最終予選で神セーブを連発した。スウェーデン、ドイツ、チェコ、スロバキアとの総当たり戦。5カ国中3カ国が出場権を獲得する大会で、日本ゴールをほぼ1人で守り切った。4試合で7失点の奮闘に攻撃陣も燃えて13得点。チェコに敗れただけの3勝1敗、2位で2大会ぶりの本大会キップを獲得した。振り返って福島はまた笑った。「これまでで最高のプレーだったかな、うん、ガハハッ!」。

 笑顔の裏に反骨心を隠す。24歳の時、交通事故で脊椎を損傷した。社会人サッカークラブのGKから車いすバスケットの日本代表を目指したが、練習過多で体調を崩し挫折。98年長野大会へ向けたアイスホッケー選手公募に39歳で応じたが、代表は落選した。「いろいろあった悔しさでさぁ、今でも続けてるんだよ、うん」。長野後は代表に定着したが、常に第2GKの立場に甘んじてきた。

 平昌開幕まで40日あまり。36歳の望月和哉と正GKの座を争うが、福島は「オレの出番がない方がチームにはいいよな、うん」と後輩の成長を期待する。その一方で「GKは最後方から攻守に指示を出すんだ。みんなに信頼されなきゃダメなんだよ。経験も必要」と意地ものぞかせた。

 静岡県藤枝市の自宅から週に1度、長野県岡谷市のリンクに車で通い続けて20年。動体視力と反射神経を専用機器で鍛える以外、10分程度の筋力トレだけを日課とする。「この年だから現状維持でいい。練習し過ぎるとケガするからね、ガハハッ!」。今月、長野市に平昌に出場する韓国、ノルウェー、チェコを招いた国際大会で、GK陣は5試合30失点と総崩れ。日本は5戦全敗で最下位に沈んだ。守備を立て直し、最終予選の力を取り戻して10年バンクーバー大会の銀に続くメダルを狙うには、福島のセーブと経験、明るさが必要だ。【小堀泰男】

 

 ◆福島忍(ふくしま・しのぶ)1956年(昭31)12月14日、静岡県藤枝市生まれ。幼い頃からサッカーを始め、専門学校、クラブチームでGKとしてプレーした。24歳の時にオートバイ事故で脊椎を損傷。その後、車いすバスケットから長野パラリンピックへ向けた選手公募をきっかけにアイスホッケーに転向した。車いすや福祉、介護用品を製造・販売するニック(株)勤務。家族は妻輝美代さん(53)。

 

 ◆日本のパラアイスホッケー 1998年長野パラリンピック開催へ向け、93年にノルウェーから講師を招いて講習会を開いたのが始まり。94年に日本初のクラブチーム、長野サンダーバーズが結成され、翌95年には東京アイスバーンズ、北海道ベアーズが活動を始め、初の国内大会を開催。2000年には八戸バイキングスが活動を開始した。パラリンピックには長野大会に初出場して5位。以降、02年ソルトレークシティー大会、06年トリノ大会と5位が続き、10年バンクーバー大会で銀メダルを獲得したが、14年ソチ大会は出場を逃した。

 

 ◆パラアイスホッケー アイススレッジホッケーから昨年、競技名が変更。下肢に障害のある選手がスレッジというスケートの刃が2枚あるそりに乗り、両手にスティック1本ずつ持ってプレー。スティックの両端はアイスピックとブレードになっていて、ピックでこぐように移動しブレードでパックを操る。1チームGKを含めた6人で戦い、15分3ピリオド制。冬季パラリンピックで唯一ボディーチェック(体当たり)が認められている。1994年リレハンメル大会から正式競技。

 

 ◆日本パラスポーツ界のレジェンド 女子卓球(車いす)の別所キミエ(70=兵庫県障害者スポーツ交流館)は、リオデジャネイロ・パラリンピックに日本選手団最年長の68歳で出場し、準々決勝進出。男子陸上砲丸投げ(車いす)の大井利江(69=北海道・東北パラ陸協)は、昨年7月のロンドン世界選手権に大会最高齢の68歳で出場し6位。パラリンピック円盤投げで04年アテネ大会銀、08年北京大会銅メダル獲得も、リオでは出場枠がなく砲丸投げに転向。