東京パラリンピックのメダルが8月25日に発表されました。扇をモチーフにした日本らしいデザインで、扇面に刻まれた花や木などの日本の自然描写は触っても楽しめます。扇を束ねる要の部分は人種や国境を超えて人々の心を1つに束ねるアスリート自身を表しているそうで、大会に込めた思いが伝わってきました。

感心したのがメダルの縁の小さなくぼみ。金は1つ、銀は2つ、銅は3つあります。視覚に障がいのある選手にも色が分かります。前回リオデジャネイロ大会では振ると「しゃかしゃか」と鳴るメダルが話題になりました。ただ、色を判別する音色は、他と比べないと分からなかった。東京は1歩前進しました。

94年から冬季5大会に出場した私は、毎回メダルデザインが楽しみでした。コンセプトは大会ごとに異なり、お国柄や個性が反映されるからです。06年トリノ大会のメダルはカラフルでした。金、銀、銅の色は外枠だけで、中に描かれた各競技のピクトグラムは、ピンクや赤で彩られ、イタリアらしく華やかでした。

10年バンクーバー大会のメダルは四角い形で驚きました。表面も平らではなく波打っていて、選手仲間と「“ぬれせんべい”みたい」と話したのを思い出します。山、海、雪という現地の地形をモチーフにしたそうです。1枚のスカーフのいろんな部分を切り取ったデザインは、同じものがありませんでした。

支える人たちの思いはメダルを収納するケースにも込められています。トリノ大会は木製の箱に厚いアクリル板がはめ込まれていて、そのままメダルを飾ることができました。とてもすてきでしたが、持ち運びには不便でした。「環境への配慮」をうたったバンクーバー大会のケースは布製で、再生ウールでつくられていました。

東京大会は木製の丸いコンパクトなケースで、他に巾着袋もついています。イベントなどに持ち運びしやすいようにしたい、という選手の声を反映してくれました。これも「アスリートファースト」の表れでしょう。そして大会後にメダルをどう活用するかまで考えた日本らしい細かい配慮も感じました。

私の手元には10個のメダルがあります。デザインの背景を知っているので、1つ1つのメダルに支えてくれた方たちの思いを感じます。それがあの歓喜のシーンとも合わさって、忘れがたい思い出が、より味わい深いものになっています。

◆大日方邦子(おびなた・くにこ)アルペンスキーでパラリンピック5大会連続出場し、10個のメダルを獲得(金2、銀3、銅5)。10年引退。現在は日本パラリンピアンズ協会副会長で、平昌パラリンピック日本選手団長を務めた。電通パブリックリレーションズ勤務。47歳。