65キロ級で141キロの日本新記録をマークした奥山一輝(22=順天大4年)は、笑顔半分のちょっと複雑な表情だった。「(日本新は)あげられてよかったです。でも、2位という悔しさも大きいですね」。

通常の試技では2回目に139キロに成功したが、1回目の135キロ、最後の140キロに失敗。ベテラン佐野義貴(51=EY新日本有限責任監査法人)が3回目に139キロをあげたことで、体重が600グラム重かった奥山の手から金メダルがするりと逃げていった。

それでも、新記録を狙う場合に許される特別(第4)試技で141キロをグイッと押し上げ、これまで佐野が持っていた日本記録を1キロ更新。3人の審判すべてが成功の白ランプを点ける完璧なフォームで成長ぶりを見せつけた。

先天性の二分脊椎症で両脚が不自由だが、もともとは小学6年で始めた車いすテニスで世界を目指していた。国内ランキングで15位になったこともある。千葉・古和釜高2年の時に参加したパラスポーツ体験会でパワーリフティングに出会い、テニスのトレーニングの一環としてバーベルに親しんでいた。二足のわらじを履きながら17年の世界選手権59キロ級ジュニアの部で銅メダルを獲得するなど才能を発揮し、この2年あまりはパワーリフティングに専念している。

「ちょっと遅かったかなぁ。今はもっと早く決断していればよかったなって思いますよ」と奥山は苦笑いする。59キロ級から一時は男子最軽量の49キロ級で戦ったこともあるが、昨年9月のワールドカップ(W杯)兼東京パラリンピックテスト大会で65キロ級に階級アップし、136キロで日本選手トップの銀メダルを獲得した。減量よりも食べて体を大きくしてパワーアップすることを選択し、この日の日本新をたぐり寄せた。

世界の強豪と東京パラ出場を争うランキングは現在20位。出場権が得られる8位以内へは40キロ以上も記録を伸ばさなければならない。ランキング対象のW杯は今月20日からの英国、4月のUAEの2大会で険しい道のりだ。それでも「チャンスがある限りは…」と、まずは160キロ、10位以内を目標にチャレンジを続ける。それが4年後のパリ、8年後のロサンゼルスにもつながるからだ。【小堀泰男】