レスリング女子48キロ級の登坂絵莉(22=東新住建)は決勝残り5秒で逆転金メダル。父修さん(52)の励ましで、姉と慕う吉田に1歩近づいた。

 登坂の顔が鬼になった。1-2で残り5秒、タックルにすべてをかけた。思い切りスタドニクの右足にぶつかった。なぎ倒された相手が尻もちをつき、逆転の2点。昨年世界選手権決勝でも残り10秒で逆転した相手に再び勝ち、夢に見た金メダルを手にした。声をあげながらマット上を駆け回ると、セコンドの栄チームリーダーを肩車。「何も覚えていないけど、金メダルへの執念の差でしたね」と話した。

 選手村で柔道の田知本に金メダルを見せてもらい「私も絶対にほしい」と誓った。「やっと手に入れました。重いです。すごく重い」と笑った。表彰式では君が代に涙した。「いろいろな人の顔が浮かんだ。弱い時から自分を信じてくれた家族を、絶対に喜ばせたかった」と、応援に駆けつけた両親に感謝した。

 8歳の時に始めたレスリング。全国中学選手権では優勝したが、子どもの頃から知る高岡市レスリング協会副会長の苅部望氏(62)は「五輪を狙える選手ではなかった」という。至学館高に進学した時も4、5番手。「テレビ収録でタレント相手に『一番弱い子を』と指名されたのが、登坂だった」と話した。

 高校時代はタイトルも取ったが、シニアでは結果が残せず。自信も失った。練習も厳しく「卒業したらレスリングをやめて富山に帰ろう」とも思った。その気持ちに気がついた父修さんからメールが届いた。「自分の進路だから、好きにすればいい。ただ、父さんはお前が1番になるのを願っている」。レスリングの手ほどきを受け、自分を信じてくれる父の思いに、至学館大進学を決意。栄チームリーダーが「誰よりも量は多い」という猛練習で、一気に才能が開花した。

 04年のアテネ五輪前、富山で合宿した吉田沙保里に「五輪で金メダルを取ろうね」と声をかけられた。至学館大では後輩として常に一緒に行動。尊敬し、目標とする大先輩は、何でも話せる「お姉さんみたいな存在」だという。「沙保里さんのようになりたい。少しでも近づきたい」と話す登坂が、まず五輪初優勝。4年後の東京に向けて「2連覇したい」と言い切った。【荻島弘一】