
【伝説の伏見工:4】準優勝トロフィーを川に投げた平尾誠二、そして初の全国制覇へ
かつて学校は荒れていた。廊下でバイクを走らせ、片隅でシンナーを吸う生徒もいた。伝説の教師はラグビーをさせることで、不良生徒を更生させていく。5年前に配信した「伏見工伝説」の復刻版。「スクール☆ウォーズのそれから 第2章」(12月28日配信)では、ドラマでも描かれたあの人がこの世を去っていたことを伝える。(敬称略)
ラグビー
<泣き虫先生と不良生徒 その絆の物語>
【伝説の伏見工】ドラマより熱い物語!全7回です
伏見工に届いた願書「あの平尾が受けてくれる…」
不良の集まりだった伏見工は、わずか数年で京都の強豪と呼ばれるまでになった。“京都一のワル”と恐れられた山本清悟が高校日本代表に選出されると、1978年(昭53)春には後に日本ラグビー界を支える存在になる平尾誠二(享年53)が入学してくる。全国大会出場を果たしたチームは、ついに日本一へ手をかける。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あれから、40年もの歳月が流れた。
「弥栄(やさか)の清悟」と呼ばれた山本が初めて高校日本代表に選出された77年の冬、山口はある中学生の自宅を訪ねた。
毎年、10月10日に開かれていた京都ラグビー祭。伏見工-花園高の前座試合として行われた、陶化(とうか)中(現凌風中)-修学院中の試合で衝撃を受けていた。
「あのスペースを突いたらチャンスになるやろうな」
そう思いながら見ていると、きゃしゃな体つきの陶化中のスタンドオフ(SO)は、山口の理想通りにボールを動かした。
名前を尋ねると、バンビのような純粋な目で「平尾誠二です」と答えた。
その時、既に花園高へ特待生で進むことが決まりかけていた。断られることは覚悟の上で自宅を調べ、足を運んだ。寒い日だった。
「もし平尾が花園高に行ってしまえば、3年間は勝てないやろうと思った。チームはようやく力を付けてきていたが、まだ学校はワルの集まり。親御さんは『あんな学校には行かせられない』と考えていたやろう。親を説得するのは難しかった。少しでも望みがあるのならと、必死で本人を口説いた。俺と一緒に花園を倒そう、日本一になろう。必ず、日本代表に育ててやる、と」
精いっぱい夢を訴えかけた。できる限りのことはしたつもりだった。帰り際、両親に深々と頭を下げ、ふと平尾の自宅を振り返る。そこまでしても山口は「無理やろうな…」と心の中で寂しい思いを抱いていた。
年が明け、京都にも公立高校の入試の時期が迫っていた。職員室に次々と出願書類が届く。あのバンビの目をした陶化中のSOは、花園高に行くものだと信じて疑わなかった。だが、その1通に「平尾誠二」の願書は、あった。
「平尾が伏見を受けてくれる! あの平尾が…」
本文残り73% (3254文字/4429文字)

茨城県日立市生まれ。京都産業大から2000年大阪本社に入社。
3年間の整理部(内勤)生活を経て2003年にプロ野球阪神タイガース担当。記者1年目で星野阪神の18年ぶりリーグ制覇の現場に居合わせた。
2004年からサッカーとラグビーを担当。サッカーの日本代表担当として本田圭佑、香川真司、大久保嘉人らを長く追いかけ、W杯は2010年南アフリカ大会、2014年ブラジル大会、ラグビーW杯はカーワンジャパンの2011年ニュージーランド大会を現地で取材。2017年からゴルフ担当で渋野日向子、河本結と力(りき)の姉弟はアマチュアの頃から取材した。2019年末から報道部デスク。
大久保嘉人氏の自伝「情熱を貫く」(朝日新聞出版)を編集協力、著書に「伏見工業伝説」(文芸春秋)がある。
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