【イチロー大相撲〈12〉】宇良、翔猿の反射神経 カメラマンが実感する瞬間

本場所で撮影しているカメラマンは、土俵下でどのように撮影しているのか? 力士が落ちてくるかもしれないポジションだからこそ、迫力ある写真が撮れる。至近距離だからこそ分かる力士のすごさは何か? 気をつけていること、撮影のコツ、など日刊スポーツの小澤裕カメラマン(56)に聞いた。

大相撲

翔猿が迫ってくる

2022年夏場所2日目。翔猿は若元春を引き落とすと、勢いあまって土俵の下まで飛び出してきた。

その時、砂かぶりにいた小澤カメラマンが撮った写真がこれだ。

翔猿の目線を見てほしい。着地点をしっかり見ているのだ。

翔猿は小澤カメラマンと、その横にいた雑誌社カメラマンのすき間をぶつからずに駆け抜けた。

小澤カメラマンは、ふわっと風を感じたという。あえて逃げなかったのは、迫力ある写真を撮りたかったという理由だけではない。

「翔猿関は反射神経がすごい。自分と横のカメラマンの間を触れずに通り抜けていきました。その間は30センチはない、20センチくらいかな。またぐようにして…。その後、着地だけ気をつけて走っていきました。ぶつかっていたら、間違いなく気絶しちゃうでしょう。

その時の状況によりますが、自分がよけた側にぶつかることもあるので、この時はあえて動きませんでした。信じるというか、相手を信用する。相手が回避してくれますから」

あえてよけないのは、力士がカメラマンの位置を把握できている場合だけ。下手によけると、よけようとした力士とぶつかる危険がある。力士が背中から落ちてきた場合は、よけるしかない。

よけるべきか、否か

1月の初場所では、実際に力士が落ちてきた。

3日目のこと。玉鷲に寄り切られた剣翔が、目の前に迫ってきた。

カメラマンの本能として、ギリギリまで粘って迫力ある写真が撮りたくなる。そのギリギリが、この写真だ。

この後は、自分の身も、剣翔の身も守らないといけない。前述の翔猿と異なり、剣翔はこちらが見えていないので、カメラマンはよけないといけない。

別の席から小澤カメラマンの様子を撮った写真がこちら。

「たまたまかもしれないけど、ケガをしないできています。これまで、靴を踏まれた程度しかありません。

でも何年かに1度、足を骨折したり、腰を悪くしたりする人はいますね」

力士にケガをさせない

カメラマン側は自己防衛に神経を使うが、同じくらい、力士にケガをさせないことにも注意を払っている。

機材が力士にぶつからないように、カメラマン同士で申し合わせて、ルールを守っている。

「1度に使えるカメラは1台。それでもほとんどの人は、2台持っていきます。カメラを持ち替えた時に、もう1つは、体の中、あぐらの上に収めておきます。

横に置いたりすると、力士が落ちてきた時に危ないですから」

体の中にカメラを収めている小澤カメラマン

体の中にカメラを収めている小澤カメラマン

そもそも、なぜ2台持っていくのか?

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。2023年11月から、日刊スポーツ・プレミアムの3代目編集長。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。 X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで、大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。