【34年前のロンドン公演~後編】若に貴から国際電話が… 舞の海戦でブーイング

2025年10月、大相撲ロンドン公演が行われました。

34年前の1991年10月にも、同じくロイヤル・アルバート・ホールで開催されました。当時は、若貴ブームの真っ盛り。当時の日刊スポーツの記事と写真を紹介します。

渡辺佳彦記者による当時の現地リポート後編です。

大相撲

ロンドン公演2日目、場所入りする大関小錦

ロンドン公演2日目、場所入りする大関小錦

若花田はフェラーリ展示場へ

10月10日

公開げいこも、海外公演や巡業では、いわゆるPRの一つ。若花田は3、4、千秋楽と3日間参加の予定だったが、2日目のこの日、協会上層部から急きょ、けいこ指令が下された。人気力士を少しでもファンに見せたいという意図からだろう。「体がきついので、今日のけいこは休ませてください」と返事をしたものの、「どんなけいこをしてるのか、見てみよう」と先発の移動バスに乗り込み、とりあえず会場入りした。

ロンドン公演2日目 取組前には稽古の様子を紹介

ロンドン公演2日目 取組前には稽古の様子を紹介

ところが、元横綱千代の富士の陣幕親方や横綱北勝海に「オイ、お前もやらんか」と誘われては断れない。入念にシコを100回近く踏んで、土俵に上がった。霧島、舞の海らを相手に4勝2敗。本格的に体をほぐしたせいか、本割の取組では栃乃和歌をつり出しで破り、“ロンドン初白星”を挙げた。

ロンドン公演2日目 若花田が栃乃和歌をつり出した

ロンドン公演2日目 若花田が栃乃和歌をつり出した

けいこ土俵に上がったのは1週間ぶり。だが、けいこ不足のブランクも「体を動かさなくても不安なんかありません。ほかのスポーツ選手はもっと休んでます。こんなにゆっくりできるのは入門して初めて。たまには休まないと仕事になりませんよ」と自己主張をむき出しにした。

昼間は、宿舎近くのハイドパークを散歩。野生のリスや、馬を間近で見ることができる緑のオアシスに「こっちはノンビリしてていいな。日本とは違いますよ。日本に帰りたくない」とポツリと漏らした。東京に戻ればマスコミ、ファンのマークに合うのは目に見えている。一方で、日本のファンから宿舎に電子郵便で100通以上もの激励メッセージが届けられていることには「この場を借りて“ありがとうございます”とお礼します」と胸中は複雑の様子だった。友人とパリ、ブリュッセルを旅行中の母憲子さんもこの日ロンドン入りし、会う予定になっている。

○…曙、舞の海の「巨漢・小兵コンビ」が、ラグビーの名門、ケンブリッジ大学の練習を見学に訪れた。相撲もラグビーも激しい肉弾戦を展開するのは同じ。もっとも、直径わずか4・55メートルの土俵で204センチ、198キロの曙と、171センチ、92キロの舞の海が同等に戦うことを知らされたラガーメンの方が驚きを隠せない様子だった。

○…公演2日目に先立ち、若瀬川、琴椿、大翔山の3力士が、ロンドン市会議事堂・ギルドホールで、施設児童との「歩行大会」に参加、友好親善に一役。集まった児童らも、お相撲さんの手やマゲに触れて大喜び。

○…元横綱千代の富士の陣幕親方も大忙し。人気も抜群で、行く先々でサイン攻めにあっている。取組開始前のけいこで安芸ノ島に胸を出す大サービス。「土俵に上がるとついその気になっちゃうんだよ。まあ、観客が喜んでくれるからね」と気持ちよさそう。

○…現地の写真店に勤めるネイサン・ストレンジさん(23)が、会場のロイヤル・アルバート・ホールで曙(22=東関)と感激の対面を果たした。実はこのストレンジさん、初の英国出身力士として注目を浴びて東関部屋に入門、「英ノ国」のシコ名で一昨年秋場所初土俵を踏んだが、相撲社会になじめず昨年初場所限りで廃業し帰国した。「ロンドンで相撲を見られるとは思わなかった。曙関もたくましくなってすごい」とガッチリ握手を交わして感激していた。

○…一夜明けて公演3日目の11日午前、若花田は車で1時間かけてフェラーリの展示場に足を運んだ。テレビ局の取材を兼ねてのものだったが、マクラーレン・ホンダの工場見学(8日)に続き、大好きな車を前に胸をときめかせていた。

若に貴から電話

10月11日

朝10時起床。思い思いに自由時間を楽しみ、夕方場所入り。日本にいれば、朝7時には起きてけいこする力士たちにとって、慣れない夜間公演(打ち出し午後10時)という点を除けば、ここロンドンはまさに「天国」。ところが、マスコミの水面下でのシ烈な争奪戦が展開されている若花田には、そうそう気の抜けない毎日が続いている。

明け方6時。取材依頼の電話のベルが、いつの間にかモーニングコールになってしまった。当初、力士の取材(特にテレビ)については、日本を出発する前に事務局に申請書を提出することになっていたが、現地入りすると、そんなシステムもなし崩し。今では「自由争奪戦」が繰り広げられている。

ロンドン公演3日目 幕内土俵入り

ロンドン公演3日目 幕内土俵入り

公演3日目の11日も、若花田はテレビ局の強い要請で、朝からロンドン郊外のある伯爵の私邸に招かれた。7億円のフェラーリなどクラシックカーが展示されている博物館もあり、車好きの若花田もそれなりに楽しんだが、宿舎に午後3時に戻るまで食事はできないハードスケジュールを余儀なくされた。

ロンドン公演3日目 ロンドンで一番人気のある寺尾(左)が曙を倒し、観客は大喜び

ロンドン公演3日目 ロンドンで一番人気のある寺尾(左)が曙を倒し、観客は大喜び

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スポーツ

佐々木一郎Ichiro Sasaki

Chiba

1996年入社。特別編集委員室所属。これまでオリンピック、サッカー、大相撲などの取材を担当してきました。X(旧ツイッター)のアカウント@ichiro_SUMOで大相撲情報を発信中。著書に「稽古場物語」「関取になれなかった男たち」(いずれもベースボール・マガジン社)があります。