年俸120円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦
年俸120円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦

2018年3月31日。僕は40歳でJ2水戸ホーリーホックと契約し、Jリーガーになった。12歳の時に夢に見たプロサッカー選手。28年の月日を経て、その夢を達成した瞬間だった。

選手、スタッフ全員が集まるミーティングの中で僕の正式な加入が発表され、みんなの前で一言求められた。何を話したかほぼ覚えていない。唯一、覚えているのは、あふれ出した涙が止まらなかったことだ。

その涙は喜びというより安堵(あんど)感がもたらしたものだった。2017年8月に僕は住んでいた恵比寿のマンションを引き払い、稼いでいたお金も全て捨てた。マンションを引き払った時はどこに住むかなど全く決めていなかった。今、思えば後先考えず本当に無謀な挑戦だったことは間違いない。ただ、その時は、「自分に正直になりたい」「情けない自分をちゃんと認めたい」「このままでは自分のことが嫌いになる」。そんな思いが僕を突き動かしたのだ。

Jリーガーになると言った時は周りから人がいなくなった。こんなにも簡単に人は離れていくのだと痛感した瞬間だった。それでも僕の決心は揺らぐことはなく、ブログやフェイスブックで挑戦の様子をさらけ出した。最初は土のグラウンドで教え子と1対1をし、夜は公園で、フィジカル部というチームを作り、5、6人の大人が集まり、街灯だけを頼りに必死に走り込みをした。しかし、これだけでおっさんの身体をアスリートにするのは到底不可能なこと。とはいえ、お金は捨ててしまっていた(笑い)。

そこで僕が選んだのはクラウドファンディングだった。プロを目指す前に僕が教壇に立っていた「biomサッカーコース」の生徒への授業でも度々伝えていたクラウドファンディング。生徒の中には僕よりも前に自らトライし、バッターボックスに立った子もいた。教え子が先にやったことを後から大の大人がやることに恥ずかしさなどなかったか?と聞かれることがあるが、僕にはそれが全くなかった。

それよりも、先にバッターボックスに立たれたことの方が恥ずかしかった。この歳でJリーガーを目指すなら最高の施設で最高の指導を受ける必要がある。そう思った僕は、当時のサッカー日本代表選手に紹介していた施設で、元メジャーリーガーの岩隈久志選手がオーナーの「IWA ACADEMY」を使おうと決めた。

僕の計画では2018年のシーズンスタートのタイミングでJリーグクラブに練習参加することを考えていた。通常だとJリーグチームのテストは2、3日の練習参加だけで終わってしまう。それでは僕が目指すJリーガー像をアピールするには日数が足りなさすぎる。シーズンスタートの段階で練習参加を実現させ、グループを構築するために行うプレシーズンキャンプに加わることで、社会人生活で培ったコミュニケーション力やプレゼンテーション力を生かしてグループの一員になれると考えたのだ。

ただ、問題はそのためには残り4カ月しか時間がないという現実だった。おっさんの身体をアスリートに変えるにはあまりにも短すぎる時間ではあったが「IWA ACADEMY」のトレーナー陣はそんな不安を一切見せず、「アビさん、大丈夫ですよ。やれます」と言い切ってくれた。

4カ月でかかる費用は85万円。クラウドファンディングを使い160人ほどの支援者の方から85万円を超える121万円を集めることができた。やってやれないことはない。どんなことでも目指す道を決めたら達成するんだという情熱と根拠のない自信が必要だ。

これからの時代は正解がないと言われているし、実際に僕もそう思う。でも、僕らはいつだって正解があると思って生きてきた。誰かが正解を持っていて、その正解を探すことに頭を使い行動していた。しかし、これからはそれでは生きていけないだろう。自分の選んだ道を正解にすると決めて挑まなければ、その答えは一生見つからない。

その時に大事なのは、本気で見たい景色が見えているかどうかだ。どうやっていいかわからなくても、そこに向かうやり方が分からなくても、自分がどうなりたいかの景色が見えていれば、その景色を見るためにあらゆる方法を試し、その景色に向かうマップを作ればいい。誰かが作った何かに頼らず、自分が歩むその足音を信じるしかない。耳を澄ませて、顔を上げて、自分の本能と感覚を信じて、前に進もう。

その足跡がデータになる。そのデータは挑戦者の地図になる。未来がどうなるかわからないこの時代を、大人が積極的に情熱を持って歩んでいこう。どんなことも後世に残る地図になるから。(続く)(J3、YSCC横浜FW)(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

年俸120円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦(左から2人目)
年俸120円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦(左から2人目)

※3回に分けた同テーマコラムの第1回はこちら。

-安彦考真がJリーガーへの挑戦から得たもの(上)https://www.nikkansports.com/soccer/column/abiko/news/202012040000263.html