U-16日本代表の森山佳郎監督(50)に、日本代表MF堂安律(20)や、MF中島翔哉(24)のコスタリカ代表戦でのプレーについて聞いた。こちらが「ビジョンがあってのドリブルであり、パスであると感じます」と切り出すと、森山監督は思うところがあるのか熱い口調で切り出した。

森山監督 彼らには先のプレーがイメージできてるんでしょうね。局面だけの打開じゃなく、ゴールを奪うための流れがある程度あるのでしょう。だから小さいエリアだけを打開するためのプレーじゃなく、その先、つまりゴールを奪うための意識が常にある。

私の理解する範囲では、森山監督が言わんとすることはサッカーの本質に近づいていると感じた。サッカーの醍醐味(だいごみ)はゴールシーンにあるが、そこに至る途中段階で、いかにゴール前のオープンスペースに、ボールを効率よく運ぶかにかかっている。例えば、素早いパス交換が続くと、見ている人はゴールへの可能性を感じる。その流れで、そのテンポでシュートまでいってほしいと、観客は瞬時にイメージするから、スタンドは盛り上がる。

同時に、それはプレーヤーにこそ求められるビジョンであると思う。あくまでもチームが勝つために、その勝利を決めるゴールのためのプレーでなければならない。

華麗なステップやフェイントで2人、3人とDFを抜いても、そこで終了、ボールを奪われて攻守交代では…。単発の攻撃では、曲芸を見ているのと大して変わらない。それを自己満足とか、エゴイストなどと表現する。個人の力量を見せる手段としては、時には新鮮に映るが、それを90分見せられて無得点では、終盤になればなるほど見ている側にはゴールへの欲求が高まる。

森山監督はこんな話もしてくれた。

森山監督 サイドバックには、ピッチサイドで起点ができた時には、その起点ポイントを追い越して裏のスペースを狙うという動きがあるが、起点の状況を何も考えずに、ただやみくもに追い越していく選手もいる。その子は、起点の状況を見ていないし、見て判断しようとしない。例えば、起点でボールを味方が持っていたとしても、2人、3人に囲まれ、ボールが奪われるのは時間の問題、という状況もある。それでも、もう、最初から追い越す、と決めているから。そこに判断するという作業がないんですよ。

追い抜くことが目的になってはいけない。付随して考えるなら、バルセロナのパス交換が一世を風靡(ふうび)したからと言って、ダイレクトパスをつなげることがサッカーの目的になってはいけないのではないか。

コスタリカ代表が若いチームということを踏まえても、堂安や、南野、中島が示したサプライズは、個の力のアピールという選手の本能よりも、このチームで勝ちたい、いかにして相手ゴールに迫り決定機をつくるかに、彼らがかなりの部分でイメージを共有できていたことだったと感じる。

そして今、U-16日本代表は「AFC U-16選手権」(20日~10月7日、マレーシア)に臨もうとしている。この大会で上位4チームに入れば、U-17W杯への出場権が与えられる。森山監督が指揮を執る中で、次世代の選手にかかる期待は大きい。

中でも、エースの西川潤(桐光学園高2年)が注目される。左足の軟らかく、正確なシュートに合わせて、パスも出せて味方をアシストもできる。DFを背負いながらボールを受けてからのターンの技術も高い。何と言っても繊細なボールタッチと加速力で、縦に勝負できるFWらしい選手だ。

その西川は13日、茨城・ひたちなかでの鹿島ユースとの練習試合では、前線に張ったり、2列目まで下がってワンタッチでボールに触るなど、チームのリズムに変化を与えつつ、2得点と結果も出した。

西川 前に張っている時は、ゴールを意識して裏を狙っていました。下がってボールを触る時は、パスのリズムが出るように簡単に(少ないタッチで)ボールを放して、中盤が活性化するように意識していました

どちらも、自分のプレーに根拠を持っており、それが正解かどうかよりも、状況をピッチ内で観察、分析しながら自分としての打開策、攻略法を持っていることを感じさせた。

コスタリカ戦で日本代表が見せた新しい一面は、どんどん進化して次世代に波及してもらいたい。さらに戦術眼を持ち、状況を分析してチームが勝つためのビジョンを試合中にアップデートしながら判断する選手が、これからの日本を引っ張っていくことを期待したい。そしてそれは指導者の重要な使命であることも見逃せないポイントだ。【井上真】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆井上真(いのうえ・まこと)1965年(昭40)1月4日、東京出身。90年入社。プロレス、野球、相撲、サッカー、一般スポーツ担当。新人時代、体育館内で原稿作成中、ふと通用口を見ると肩から上が見えない巨人が通過。驚いて飛び出すと大巨人アンドレ・ザ・ジャイアントだった。

日本対コスタリカ ドリブルする中島翔哉(2018年9月11日撮影)
日本対コスタリカ ドリブルする中島翔哉(2018年9月11日撮影)