ユベントス戦で好セーブを見せたマンチェスターUのGKデヘア(ロイター)
ユベントス戦で好セーブを見せたマンチェスターUのGKデヘア(ロイター)

サッカーはいかに点を取るかに多くのファンの興味は集まるが、サガン鳥栖GK権田修一(29)の言葉を聞いていると、GKがどれだけ決定機を防ぐか、その視点も必要なんだと考えさせられる。

権田の口調は少しだけ興奮していた。欧州CL1次リーグのマンチェスター・ユナイテッド-ユベントス戦で、GKデヘアが見せたファインセーブについて詳しく教えてくれた。後半7分、やや右サイド、ペナルティーエリアのライン付近。右サイドを上がったクアドラードは、走り込むロナウドへ、まさに直接シュートしてくれと、絶好のパスを送る。ロナウドは右足ダイレクトで狙う。ゴール右上の隅付近へ、強烈で正確なシュートが飛ぶが、デヘアは空中で素早く体を左へひねりながら、右手でボールに触れ、シュートをバーの上へはじき飛ばした。決定的なシーンで得点を防いだ。まぎれもないビッグセーブ。

そこまで説明してくれた権田は言葉を続けた。

権田 あれを止めるのか。そういうプレーでした。あのシュートは、ゴールの隅を正確に狙っていた。それを防ぐ。世界のGKのトップオブトップは大切な試合の中で、必ずそうしたセーブでチームを救うんです。デヘアを見れば分かると思います。彼らトップのGKはゴールの隅までどころか、さらにその先まで手が届きますから。皆さんは分からない部分があると思いますが、僕らのレベルでも、シュートがいくらギリギリを狙っていても、それが右側へ飛ぶ、左側へ飛ぶと分かってさえいれば、ボールに手が届くんです。でも、それが試合中だといろんな要素が絡んできます。もちろん、どっちへシュートが飛んでくるか、それには反応するしかない。さらに、DFのシュートブロックによってシュートコースが変わることもある。だから、相手のシュート体勢を見ながら、味方DFの位置などを考慮して、いろんな選択肢の中でシュートコースを決断しないといけない。トップオブトップのデヘアのようなレベルには、僕はまだまだいかない。でも、来年30歳。ここからカバーできる範囲を広げるためには、予測とかいろんな工夫をしていかないといけないんです。

確かにデヘアの動きを見ると、バクチが当たって偶然に防いだとは思えない。デヘアからすれば自分の左側へシュートが飛ぶことを予測し、左サイドへのシュートはどこに飛んで来ようとも、防げる準備が整っていた。日本でよく言われる「神様コースに飛んだから失点やむなし」、そういう概念はデヘアの中では存在しない。触るべくして防いでいる。

権田は世界のサッカーはそういうレベルに達していると言いたいのだと感じた。日本ではまだまだGKのビッグセーブを偶然性も含んだ上でのビッグセーブとして奉る傾向があるが、そういう神業、神セーブ的な受けとめ方をしていては、世界トップのGKとの差は埋まらない。

権田は代表活動期間中にこんな言葉を残していた。「代表に来ると、海外組と一緒にプレーをします。そうすると、彼ら海外組が所属するチームのGKがしているプレーを、我々も求められているんだと感じることがあります。そんな中でプレーすることで、何かを感じていかないといけない」。このコメントについて具体的に聞いてみると、権田の答えはシンプルだった。

権田 例えば、酒井宏樹のいるマルセイユのGKはマンダンダ、(長友の)ガラタサライはムスレラ。そういうレベルのGKは、試合や練習の中で『あれを取るんだ』ってプレーをしている。だから、僕らも同じ感覚を海外組が持つようなプレーをしないといけない。そういう意識を持つことで少しでも成長して、向上していかないと。

権田の所属する鳥栖は、10月24日の天皇杯準々決勝、浦和レッズ戦(熊谷)で0-2で敗れた。浦和が決めたいずれのシュートも、ゴール隅へのファインゴールだった。

権田 今日の2点目だって、相手が打つ前に動いてはだめなんですが、ステップをひとつでも踏むことができれば届くんです。確かに2点とも難しいコースに飛んでます。でも、それをひとつでも止めれば、今日だってどんな試合になっていたか分からなかった。現に、後半はうちの方が押していたわけですし。

権田は海外へ行くことが、フィールドプレーヤーにとっても、GKにとっても重要だと言った。

権田 Jリーグにいるってことは、見方を変えれば海外には行かない、行けないってことなんです。ビッグクラブからオファーがあれば、普通はチャレンジする。そういうレベルじゃないからここにいるんです。だから、Jリーグのシュートだけを見ていては、トップオブトップのGKのプレーは味わえないんです。

決定機を洞察力で防ぐ能力は、確かな技術として一流GKは備えている。日本のGKもその技量を身に付け、それが日本代表のGKであるべきだ。そして、そうしたGKの能力を押し上げていくのは、まぎれもなくフィールドプレーヤーのシュート力だろう。FW、MF、DF、シュートを打つ選手のスピード、コントロールが一流でなければ、それに対峙するGKもビッグセーブへの道を上ることはできない。

シュートまでのステップのリズムに変化をつけて打つ、DFの隙間、股間を抜いて狙う、背後や横から飛んでくる浮き球をボレーで正確にゴール端を射抜く。そうしたレベルの高いシュートを浴びる中で、驚異的なカバー力が養われていく。その究極のシーンを、Jリーグでも毎週末見られるように、両者の向上心と向上心のせめぎ合いを期待したい。【井上真】

◆井上真(いのうえ・まこと)1965年(昭40)1月4日、東京出身。90年入社。野球、相撲、サッカー、一般スポーツを担当。入社当初はプロレス担当。秋田の体育館の倉庫に、ブッチャーとジャイアントキマラに監禁されワープロを破壊されそうになった。

好セーブを見せる鳥栖GK権田修一
好セーブを見せる鳥栖GK権田修一